割烹

ニトラム/NITRAMの割烹のレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.9
1996年にオーストラリアで起きた銃乱射事件を題材にした、オーストラリア映画。
実際の動機ははっきりしていないが、発達障害のために田舎町で蔑まれながら育ってきた青年が、様々な出来事を通して孤立感を深め凶行に及んでいく始終を透徹した眼差しで描いている。
本作でカンヌを獲った主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、知的障害のために社会に馴染めない哀れな姿だけでなく、承認欲求が満たされず愛を渇望する側面や、唯一出会えた理解者との束の間の暮らしを楽しむピュアでイノセントな側面などを併せ持つ、非常に難しい役どころを演じている。
また凶悪犯罪者の多くは家庭に問題があったとされ、一般家庭にとっては対岸の出来事にように語られるが、本件では発達障害の子どもを持つことの困難さと、両親の苦悩にもフォーカスが当たっている。
両親ともに子どもを愛してはいるが、理想とのギャップを隠そうとせず息子に対して厳しく当たってしまう母親、息子を理解し寄り添う姿勢ではいるものの現実を受け止める強さがなく、絶望の中で自らの命を断ってしまう父親。子どもに障害がなければ愛のある家庭が築けていたかもしれない。こうして健全でなくなってしまった家庭環境が凶悪犯罪者を作り出していたとして、彼らを責めることができるだろうか。
そして、すでに十分に不幸を得た主人公やその家族にとって、さらに大きな不幸となったのは、銃が用意に手に入る社会であったことだ。これが本作の最大のテーマでもあるが、どれだけ社会への恨みを募らせたところで、銃が入手できなければ35人もの人命が奪われるような事件は起きなかった。もちろん被害者の多寡の問題ではないが、悲劇がより大きくなることを防ぐための問題提起としてはよい作品となったと思う。
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