アベラヒデノブ0阿部羅秀伸

ニトラム/NITRAMのアベラヒデノブ0阿部羅秀伸のレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.3
結末を知らずに観た。あまりにも辛い。彼のユーモアと優しさ、コントロールできない怒りの発作や衝動。それらが混然一体と煙を上げ続ける日々。やわらかい光に導かれそうな時も確かにあったのに…彼を止めることができたのは、きっとヘレンだけだったと思う。しかし難しい。彼は失われる命を悲しむこともできるし、ヘレンを想い続けることもできた。なのに、客観的にセーフか?アウトか?その判断だけはいつまで経ってもできない。
映画としては美しい。個性的でユーモアに溢れながらも問題だらけの主人公が、葛藤しながらも人との出会いに救われて回復へ向かってゆく奇跡の物語。として途中まで観ていたからこそ、フィクションではない凄惨な結末を思い知った時、この描き方で正解なのか否か。監督は一体、何を伝えたかったのだろうか?
でも映画として面白いし大好きなので、心がザワついたままだ。
エンタメとして輝いているからこそ、この事件のことをぼくは一生忘れないだろう。
映画「トレインスポッティング」でドラッグの恐ろしさを伝えるつもりが、ハイセンスなファッションに身を包む主人公たちをダニーボイル監督がスタイリッシュすぎる映像で卵とじしてしまった結果「この映画サイコーだぜ。カッコ良すぎるぜ!」と若者たちが熱狂してしまうという超皮肉な歴史をふと思い出した。