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ニトラム/NITRAMのTラモーンのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.8
キッツい邦画続きのあとはキッツい洋画いきましょう。


ニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は精神障碍を持つ青年。幼いころから火遊びを繰り返し、大人になった今でも毎日花火を打ち上げるのを辞められず近所から厄介者扱いされていた。彼に普通を求め厳しく接する母親(ジュディ・デイヴィス)と懸命に彼をケアしようとする父親(アンソニー・ラパーリア)との生活に嫌気が刺したニトラムは、草刈バイトをきっかけに仲良くなったヘレン(エッシー・デイヴィス)と共に暮らし始める。


こりゃまた暗い映画だ…。

オーストラリア最悪の銃乱射事件といわれるポート・アーサー事件の犯人マーティン・ブライアントの生い立ちに迫った作品。

事件そのものではなく、ニトラム(マーティンのスペルを逆さ読みした蔑称)が何故事件を起こしたかを紐解く作品となっている。
とても淡々と描かれ、明確な原因は観る人の捉え方に委ねられているのだろう。しかし、精神が不安定な障碍を抱え、苦しみながら生きる彼にとっては不幸な出来事が重なりすぎた。誰が、どうしていたらこの事件は起こらなかったのか。

家族、恋人、友人、社会。

子を持つ親の立場だとしたら…母親なのかな。ニトラムに普通の子であって欲しいと願う彼女の希望が彼を抑圧する枷になっていたのは明白だ。

"君はいつもあの子を追い詰める"
"彼はいい子よ"

母親の気持ちがわからないわけではない。自分の子どもが他の子どもと比べて劣っているところを認めるのは大変だ。でもそんな彼を受け入れてあげていられたら。

大好きだったはずよ父親に間違った叱咤激励をしたのも母親からの抑圧の跳ね返しではないだろうか。

"ママもぼくをニトラムって呼ぶ連中と同じさ"

もちろんそれだけが原因ではないだろう。
ニトラム本人の抱える闇や孤独。自分が変わり者であると自覚できてしまう悲哀。しかしそこから抜け出す方法がわからないもどかしさ。
サーフィンが上手くなりたいけど、どうしたらいいかわからない。女の子と仲良くなりたいけど、どうしたらいいかわからない。自分のちょっとした悪戯が取り返しのつかない出来事となり、どうしたらいいかわからない。

"皆絶望的な気持ちで毎日過ごしてるんだ"
"皆と同じになるよう鏡の中のそいつを変えたいけど方法がわからない"

最後の日、でかける前に鏡にキスをしたニトラムはそいつを許したのだろうか。

そしてそのニュースを知ってか知らずか、タバコを吸う母親はニトラムを許したのだろうか。

どうしたらよかったんだろう。
あんなに簡単にお金が手に入らなければ、あんなに簡単に銃が買えなければ。


ケイレブ・ランドリー・ジョーンズの怪演が見事。孤独で、繊細で、だけども話の通じないヤバい奴を完璧に演じ切ってた。
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