イトウモ

パリ13区のイトウモのレビュー・感想・評価

パリ13区(2021年製作の映画)
3.3
おもしろかった、というか軽い。
シアマが脚本に参加しているというのもあるだろうが、女性の話、移民の話、若い人の話、アメリカ人の漫画原作ということで、オーディアールが急激な若返りをしていることに驚く。

リードマイリップス以来のやたらと忙しく、暑苦しい撮り方が、執着のない乾いた軽やかさに変わっている。音楽に頼りすぎということもあるけれど、撮影・編集にオーディアールの映画としては一番好感を持った作品かもしれない。

ポルノの主題、性の話はアサイヤスに近い印象を持った。というか、老化して枯れてきたので映画の方でこういう赤裸々なことがやりたくなるのではないかという、恥ずかしさはある。
恥についての映画というのではなくて、映画の衒いのなさに対する観客の恥ずかしさだ。
元ネタとされているロメール『モード家の一夜』には、いかにもかしこぶった人たちが性の話や恋の話を恥ずかしそうにする慎ましさがあったので、今作とは似ても似つかないと思った。


ステレオタイプだが女性が髪型を変えるというモチーフが貫かれている。まず女性の失恋が描かれ、それで失恋先だった男が別の女に失恋して帰ってくる。登場する二人の女は切ること、鬘をかぶることで、髪型を変えている。女たちの心変わりの映画であり、その間を行き来する一人の男の運動である。男は休暇期間であり、仕事を転々として、揺れ動く役割ばかり与えられている。
鬘にしても、ラストにしてもあの不動産の女性の役は、元ネタがマイク・ミルズの『クローサー』に出てくるナタリーポートマンの役にあると思う。