断面図

わたしは最悪。の断面図のレビュー・感想・評価

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
4.0
一人でに涙を流す時。オスローの空の切れ目。静まる海辺。暮れる街並み。美しい風景が、ユリヤに直接何かを語り掛けてきた訳ではない。無闇に蓋をして認めなかった迷いや本音に、小さな風が吹き抜けるのだろう。声に出さない聞こえない胸の内で自問自答は続く。毎日、当たり前のように息をしているはずなのに、態々、ゆっくり吐いて、大きく吸い込む、深呼吸をしてから、目の前の季節が夏へと移り変わっていることに気付く。雲が、とんでもなく大きな事に。ユリヤに限らず、私たちの人生はこれを繰り返し繰り返し、そういう事なのかもしれないと、諦めがついた。

自ら、今ある彼との時を止めて、直感で運命の恋に駆けていった彼女。走り出す時はいつだってキュートな笑顔が溢れているのが印象的だった。二人以外の時間が止まったのではなく、二人の時間だけが動き出した。最低、身勝手、自由奔放、でも感じたまま心に従って生きたい!だってこれは私の人生だから。脇役はゴメン、マジックマッシュルーム!なんて勘弁してくれ。そう嫌悪感を抱くものの、知性からなる器用さと、楽観的とも皮肉的とも取れる彼女のチャーミングな様子に、性別関係なく魅了させられてしまう。アクセルはまさにその一人で、冒頭でも自身に対して予言をしていたけれど本当にその通りになってしまった。アクセルとユリヤの関係や、二人に対する考察をするのはもう野暮な事であるから、あまり書けることがない。ひとつだけ後悔があるとしたら、君に自信をつけてあげられなかったこと。この言葉を、浮気して離れていった元恋人に言える人間は、ほぼ神話のようなものだ。頼むから、次は人間に生まれず木星とかになって欲しい。誰かとまた恋に落ちても、あのアパートで生きられなかった彼の一節だけは、忘れないでいてあげてくれ。とやかく言いたいワンシーンが現れ過ぎていて、ずっと苦しかった。

将来的に、いつか子供を産んで家族になりたいと思えたらラッキー。この世に、私のことを大好きな人間がいないのって、アホほど孤独。ワハハ。くらいの感情で今は済んでいるから、結婚も同等に。コインの裏が出るか表が出るかみたいなもの。恋人という形を結ばなくてもセックスはしていいものだし、同じ気持ちにならなくても一方的に好かれていたい特定の人間は現れたりする。無意識の内に、差別的な発言をしていたりする口の悪さと頭の悪さ。器用とまでいかないから、ただの損。ユリヤからスタイルや容姿、賢さだけを取り除いた女。が、あたし、か!という振り返りを、帰り道の大きな入道雲を見つめながら心の中で。それでもよく言いすぎてるな。

ありがとうとごめんねを言えただけでは、人生を渡り歩ききれないこともうとっくに気付いてしまっている。ループする。私が私を見つけ出す前に、あなたが私を見つけて。これを言えるのがユリヤ。何者になれるだろうか。なりたい自分を探し続けて。いつか、またいつかこの作品を笑って見ることが出来たら、ようやくそのループは終わる。前髪切ろう。
断面図

断面図