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わたしは最悪。のbibooのネタバレレビュー・内容・結末

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

見る世代やタイミングでだいぶ感じ方や沁み方が変わる映画だと思う。“若い”でなんでも通過できていた20代から、社会から責任のある大人として見られる30代に移り変わる揺らぎや節目の話であるが、起こるエピソードに激しさは意外とそこまでない。ただの日常の些細な波を映画的にダイナミックにファンタジックに表現して面白くしているだけで、よく見るとなんてことない誰にでもあり得そうな話。だからといってつまらないわけじゃなくて、当然と思えるし、ある意味リアル。主人公・ユリヤと世代が近いほど妙にリアルで、なんか聞いたことある話。

いろんなことに挑戦して自分のキャリアを期待したり、周りに急かされるまま自己中心を一旦置いて家庭を作ることを恐れたり。地に足がついてる人がちょっと羨ましいところもあるけど、地に足をつけきらず自由であることを楽しんでいる自分もいて。周りばっかりが年齢で自分を見てくるからそれに怒ったりして。それなりにアクティブに生きてきた、まさに現代的と言える女性を描いているんだけど、妊娠などの違いはあれど、なんだか男女関わらず当てはまる話として見られる。

元彼たちの描き方も秀逸で、アクセルに関しては、お見舞いに訪れ話しているうちに感傷的になり、なんならあの頃の彼の包容力や安らぎなんか思い出しちゃって、ついでに地に足ついてて羨ましいと思っていたなんて褒めちゃったりしたんだけど、ガンで死にかけてるにも関わらず妊娠で弱っているユリヤの乳をなんの距離感の勘違いかしれっと揉もうとしたり、ポロっと無神経なこと言ったり、「あ、こいつそういえば差別的でホモフォビアな漫画書いてるやつだったわ」とハタと別れた時の感情を思い出す感じが可笑しくて、思い出した感じがセリフのニュアンスや表情で伝わってきたのも良かった。その彼のこじらせ感を病室でがむしゃらにエアドラムをする仕草で表現してたのも面白かった。あと別れ話の後になし崩しでセックスするのも何気にあるあるな気がするんだがアレなんなん。あの現象に名前をつけてほしい。

「あなただから自分を曝け出せる」「あなたには何でも言える」と元彼たちに言ったりもしたし、アイヴィンとは居ようと思えばいつまででも一緒にいられそうな感じもしたのに、アイヴィンはユリヤと別れ相手が変わった途端スルッと子供作って結婚したりして。いやあ、やっぱりそんなもんだよなー。
お互いに好きなところも気になるところもあるけれど、気になるところは相手の存在が勝れば踏ん張るわけだし、なんだかんだ結局は全部タイミングであるということをまざまざと実感させられた。
妊娠でブルーになったユリヤが「私は新しいものに目移りする性格だから自信がない」と自負したけれど、あんだけ進路で寄り道しまくった彼女が最後にはカメラマンとしてのキャリアを積み重ねていたのも、結局タイミングと縁だなと思わされた。あとユリヤの世間狭すぎな。

最初女性の監督が撮ってるのかと思ったほど、絶妙にリアルで機微が繊細で、噛みしめるほどに良かったところが思い出される。
ノルウェーの白夜の空が終始綺麗なのも癒された。あと、ユリヤの衣装も可愛い。音楽もとても良くて、エンドロール最後に流れるArt Garfunkelの「Waters Of March」の、「豪雨で小石や切り株や小枝が流れて、いろんなものが流れ果て、暗い雨空を超えると3月のキラキラとしたせせらぎが聞こえ、次第に心を満たすような喜びが溢れ出す」っていう感じ(ざっくり)の歌詞の世界観とユリヤの状況がシンクロしてるのも素晴らしい締め。

ただ、オーラルセックスのコラムだけは唯一意味わからんやった。
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