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わたしは最悪。のvioletのレビュー・感想・評価

わたしは最悪。(2021年製作の映画)
5.0

わたしは最悪。だけど大丈夫。


ああ〜〜久々に心にぶっ刺さる映画に出会った。

人間の馬鹿で汚い部分、普通映画では省かれるような下らないところもあえて映しちゃうという、非凡なシネマティックセンスに感動。ユーモアたっぷりの取るに足らない話に油断していたら、いつの間にか重くて深い人生の話に姿を変えて心の奥深くにまで侵食してきた。なんかよく分からんけどずっと泣いてた。

ユリヤの生き方そのものには全然共感できないし、なんでそんなことするの?って思うことばかりなんだけど、一方でうっすら自分と重なる部分を感じちゃった。自分と他人を比べて自己憐憫に耽ったり、自分勝手な行動で周りを振り回したり… もしかすると、自分って実は結構ユリヤなところあるのかもしれない。「自分が主役の人生を生きたい」ただその一心で生きてるけど、なかなか上手くいかなくて苦悩している状況が自分すぎた。

常に浮ついていて自己中心的、感覚的で飽きっぽく、計画を立てて行動することができない。作中ではユリヤの個性が欠陥としてしか表現されていなかったけれど、彼女は決してダメな人間じゃない。長所と短所は表裏一体、つまり人間誰しも短所と同じ分だけ長所があると思うのです。

私は過度に慎重でチャレンジ精神が乏しいから、とびきり無鉄砲な彼女に憧れさえ抱いてる。今まで積み上げてきたことを呆気なく手放し、新しいことをスタートさせるとかいう思い切りの良さにも憧れる。アクセルが「君のテキトーなところに救われてるんだ」って言ってたけど、本当にその通り。神経質で完璧主義な自分にとって、大雑把で楽観的な性格の友達と過ごす時間はとても心地いい。

欠点も含めて愛してるというアクセルの必死の訴えが、ユリヤにまったく響かないあのシーンは辛すぎたよね。アクセルは精神的に大人すぎるし達観してる。自らに起こることを全て運命として潔く受け入れて、静かに流れに身を任せる。何があっても取り乱さず、悲観的にならない。余裕のないユリヤとはそりゃ合わないわけだ。だけどね、最後のユリヤの表情はちゃんと余裕のある人の表情だったんだよ。だからユリヤはこれからきっと大丈夫なんだよ。

大きすぎる空を見て自分の存在の小ささに落胆するシーン、時を止めて全力疾走するシーン、脚へと流れ落ちる血を見て安堵するシーン。忘れられない瞬間をたくさんもった作品でした。そして、今の私に必要な作品でした。
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