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コンパートメントNo.6のDのレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
4.0
2023年 12本目

観た後に「めっちゃ良かった、、、」とただただ余韻に浸ってしまう映画だった。恋人にドタキャンされ、ペトログリフとかいう岩面彫刻を見に行く旅に一人で行かなくてはならなくなった主人公。ロシアのモスクワから世界最北端の駅ムルマンスクへ向かう寝台列車で、粗暴な男性と相部屋になってしまう。酒は飲みまくるわ、クソみたいな態度でクソみたいに失礼なこと言ってくるわで、最悪な旅のはじまりとなる。外は豪雪でめちゃくちゃ寒そうで、孤独感がより一層際立つのだが、次第にその男性と打ち解けていき、友情(愛情?)が芽生えていく。最初は凍えるような景色と酷い状況が相まって観ているこっちまで具合が悪くなるような気分だったのだが、気づけば美しい冬景色と二人の関係性に心が暖められていた。今まで観てきたロードムービーといえば、暑い炎天下に荒野のど真ん中一本道をひたすら車で走り続け、行く先々でハチャメチャに出くわすようなワクワクを与えてくれる映画が比較的多かった。だからこの映画の序盤では「こんなクソ寒そうな中の一人旅なんて最悪でしかないだろ、、大丈夫かよ、、、」と思っていたのに、観終わる頃には「やべえ、、旅って素敵だ、、、」と感慨にふけっていた。

相部屋になったロシアのスキンヘッドの青年が一体なぜ○○(一応ネタバレになりそうなので伏せ字)を拒んだのか、様々な推測が飛び交っている。「主人公はレズだと言われていたから」「ただの恋愛初心者の童貞だから」など。自分は、友人に自称スキゾイドパーソナリティ障害という心の病気を持った人がおり、その人と妙に似た雰囲気があるな、と思いながら観ていた。誰に対しても笑顔で明るくフレンドリーに振る舞っていれば仲良くなれるわけではない。ひとりひとり対人関係における適度な距離感があって、仲良くなろうとしすぎれば逃げていくし、何を裏切りと感じてしまうのかも人によって違う。何が適切なのか自分自身ですら理解できていなことだって多々ある。そんな難しい心の距離感と感情の機微を細やかに掬い取る名作だった。

とりあえず寝台列車の一人旅、自分も一度でいいからしてみたい…寒いのはやだけど(笑)
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