星一

コンパートメントNo.6の星一のレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
3.6
 フィンランドの留学生、ラウラは恋人とペトログリフを見にいく予定だったが、突然のドタキャンにより、一人で行くことになる。ペトログリフがあるムルマンスクまで寝台列車で向かうが、そこで同乗するのがリョーハという酒癖が悪い男。ラウラは最悪の旅が始まったと思いきや、彼と共に旅をしていくことで仲を深めていくことになる。感情が飛び交う男女を映した静かなロードムービー。

 この映画の印象として思ったのが、セリフが少なくないのに少ないと感じたこと。これはいい意味でそう思った。感情をセリフでは表さずに、表面の部分だけをうまく、切り取り映している。この映画にはそういう印象がある。だからこそ、それぞれの思っている部分があるのにそれを決して言葉にせずに行動として、表現しているのが映画としての味が出ていると思う。

 この映画は基本的にドラマチックなことが起きることは特にない。しいて言うなら最後のリョーハに会いに行くくらいだろうか。何か起きそうな感じはあっても、大きな事件に発展することは特にない。その嫌な予感を作るのも本当にうまいと思った。

 ラウラとリョーハのこのやりとりや何かを感じ取ろうと苦心するラウラの様子も劇的に映してはいないがとてもロマンチックに感じた。

 リョーハの裏にある何かをもう少し、映像として欲しいと感じたし、酒癖が悪いシーンなんて最初しかないけど、基本的に不器用でいい奴で好きになる。

 どんなシーンでも予感や何か思っているように感じさせられる。決して多くは語らないがそれぞれが何かを思っていて、何かを感じている。人の優しさ、温かさ、恋する楽しさ、苦さ、それらを思う存分楽しめる、淡いラブストーリーで見応えのあるロードムービーだと思う。
 
星一

星一