よしまる

コンパートメントNo.6のよしまるのレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
3.9
よしまる2023年洋画ランキング第8位は 「オリマキの人生で最も幸せな日」でデビューしたフィンランドのユホクオスマネン監督、なんと2作目でパルムドール!
おめでとうございます。

前作はフランス映画にも近いモノクロの恋愛映画、そして今回はロシアへと旅するフィンランドの女の子が男の子に出逢うロードムービー。前作は「最も幸せな日」だけれど今回はまあまあ最悪な日が続く。

だというのに、今回はカラーになったぶんキャラクターの表情や情景が鮮明に映し出され、多幸感も増し増し、ずっと楽しく見ていられる。いいなぁ、これ。

北欧、と一括りに言っても、文化や思想、さらにはインテリアなんかもフィンランドはロシアに近くてデンマークはドイツに近い、というふうにかなり異なる特徴を持つ。なにしろ戦前に独立するまで100年近くロシアの植民地だったし、なのにその後はドイツ側に付いたばかりに敗戦国になったりと様々な歴史があり、そうしたロシアとの微妙な関係性がこの映画の中でもそこかしこに見られて面白い。

ただ、そうした背景など無かったとしても、同性の恋人に軽くあしらわれるぼっちなフィンランドの女の子と、女なんてクソだくらいにしか思っていないこれまたぼっちなロシアの男の子によるホッコリラブな物語は誰もが楽しめるものとなっている。

ささいなことで心を閉じたり開いたりと忙しい2人。乗り合わせた列車に終点はあるけれど、2人とも自分が行くべきゴールは見えてはいない。
そんなふたりだからこそ、すれ違いながらも一瞬心を重ねるときがある。それは本当に一瞬一瞬に過ぎず、とても脆くて儚い時間。
例えば雪が降ればすぐに埋もれてしまうような、あるいは雪解けとともに跡形もなく消え去ってしまうような。

ひとりではなし得ない時間、自分がいて、他人がいて、ふたりだからこそ生まれる時間の尊さを沁み入る様に感じさせてくれる映画だった。

あれがこうなってどうなってという考察や、筋道があって物語が着地するだけが映画じゃない。
そんな当たり前のことを、あたたかな眼差しを持って届けてくれるクオスマネン監督の今後がますます楽しみでしょーがない。