カルダモン

コンパートメントNo.6のカルダモンのレビュー・感想・評価

コンパートメントNo.6(2021年製作の映画)
4.3
モスクワから世界最北端の駅ムルマンスクへと向かう寝台列車。太古の岩絵ペトログリフを観に列車に乗り込んだのはフィンランド出身で考古学専攻のラウラ。彼女が二等車のコンパートメントで相席になったのは態度の悪いロシア人の炭鉱夫リョーハだった。向かい合わせの相席で相性最悪な男女の出会い。普段の生活では交わりようのない二人が同じ目的地までの旅を共にする。

実際に走る寝台列車を使って撮影されたこともあり、刺すようなロシアの冷たい空気と狭い列車の窮屈な感じが直に伝わってくる。監督曰く撮影は大変だったそうだけど、セットとCGでは絶対に表現できない空気感は大事な要素だった。

昔から寝台列車の旅に憧れるけどいまだに実行したことはない。Googleマップで調べてみたところモスクワからムルマンスクまでは約35時間の行程だった。映画内では途中駅で一泊停車する場面もあったから実際には丸2日くらいなのかな。実際にコンパートで男女が出会ったら何かが始まらないわけがない、などど想像を膨らませながら、いやいや実際には同じく一人旅の冴えないオッサンとの相席で一言も喋らない、なんならイビキがうるせーな!と苛立ちまくる方がリアル。

この映画では二人の出会いを劇的なものとして描いたりはしない。嘘くさい恋愛に発展することがないので心の距離感や言葉の表現、温度感はほどよく自然に感じられた。フィンランドもロシアも同じ厳しい凍土を進む似たもの同士、元はペトログリフを描いた遠い祖先とルーツは一緒かもしれない。時代が進むにつれ国や思想が分岐して進む方向が異なっていっただけかもしれない。互いに解けていく二人の距離が“ハイスタヴィットゥ”という言葉一つで見事に括られて、拙い似顔絵にとどめを刺された。




オープニングクレジットで不意打ちのようなロキシーミュージックの『Love is the drug』でいきなり掴まれたのが気持ちよかった