YAEPIN

ストーリー・オブ・マイ・ワイフのYAEPINのレビュー・感想・評価

3.1
妻について話す前に、まずは自分と向き合ったらどうですか?
完全にレア・セドゥ目当てで、予告も見ずに鑑賞したが、主人公の男に結構イライラしてしまった。

レア・セドゥは相変わらず、人類を皆誘惑し、騙し、そして許されてしまうチャーミングなエロティシズムを持っており、それを観られただけでも良かったのかもしれない。

本作は、主人公がそんな魅力的なレア・セドゥに一目惚れし、出会って直ぐに結婚を申し込むところに始まる。
そのまま取ればロマンチックなのだが、蓋を開けると起こっていることは非常に現実離れしている。

主人公はくたびれた貨物船の船長で、不摂生が祟ってそろそろ病気も気になってくるお年頃。
「妻は健康にいい」と出た腹をさする同僚の話を聞き、停泊地のカフェに最初に入ってきた女性と結婚する、という冗談めいた賭けをしたら、本当に美しい女性が入ってきた。
それに男は運命を感じ、勢いで求婚するが、不思議とあっさり承諾してもらう。
さらに彼女は、一時的な停泊の後に数ヶ月家を空ける男の帰りも、大人しく可愛らしく待っていてくれる。

主人公は、男に限らず全人類が夢見るような都合のいい存在を手に入れた訳だが、無論それで済むはずはない。
交友関係が広く自由奔放なレア・セドゥには、取り巻きが何人かおり、警察にも名を知られるくらいの遊びっぷりであった。
主人公はそれに不安と嫉妬を覚えながらも、最初は大人の余裕からか、知らないフリをして泳がせる。

それでも夫婦の関係性は徐々に熱を失っていき、主人公は怒りと虚しさで鬱屈としていく。
その時点でかなり哀れな姿なのだが、妻自身に促される形で不倫を試みては失敗したり、自分を顧みない妻に金を渡すのを渋ったり、挙句の果てには手を挙げたり、時間を追うごとに目を覆いたくなるほどの落ちぶれ方だった。

確かにレア・セドゥの奔放ぶりも激しいのだが、出会ったその日に結婚を承諾してくれるような人と、平穏で退屈な生活を築ける訳が無い。
金だけ与えて、夫も帰らない鳥籠に閉じ込めておけるような人であるはずがない。
それくらい覚悟の上だろう、と主人公に同情の気持ちが抱けなかった。

何より、主人公が諸々の出来事の責任を自分ではなく他に求めがちなのだ。
気に食わない男に勧められた職がオランダで上手く行かなかったとしても、移住を決めたのは結局自分で、男を逆恨みする筋合いはない。
妻とのすれ違いを嘆くものの、妻の心や、それに対峙する自分の心を見つめ直す努力をしていたとは思えない。
そもそも結婚を考えたのも、謎の腹痛を解消するためだ。

さらに悪いことに、主人公の周辺人物たちは、彼を「君は誠実だから」とことさらに慰める。
全て、彼が自分で自分の尻拭いができず、ただ妻に翻弄されるがままになっていることの言い訳を与えているように感じた。
主人公はそれを都合良く鵜呑みにしているからこそ、誰にも相手にされず惨め極まりない状況下でも、マッチョな歌詞の民謡を披露できてしまうのだ。

しかしながら、全てを失ったかに思われた主人公の生活水準は、意外にも保たれる。
そして「お転婆娘に翻弄されたがなんだかんだいい思い出だったぜ」と良い話風な着地をする。
主人公のあらゆる行動に相応の結果が伴わない、責任感のないストーリーだと思った。

本作は7つの章立てて構成されており、話の内容的にも『わたしは最悪。』を想起した。この映画も『俺は最悪。』だったらまだ違った印象で観られたかもしれない。

時代感を出すために敢えてフィルムカメラで撮影(あるいはフィルムカメラ風に編集)されており、構図もワンカットごとに絵画のようで美しかった。
そこに、時々ファゴットの軽妙で少し気の抜けたサウンドが鳴る。その要素がもう少し多ければ、主人公が振り回される情けない姿がオシャレに面白おかしく映り、映画のテイストも分かりやすくなった気がする。

『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』に似せた紛らわしい邦題をつけたもんだと思っていたら、原題ママだった。
そして関係ないけれど、ルイ・ガレルは『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』にも出てたんかい!笑
YAEPIN

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