木蘭

ストーリー・オブ・マイ・ワイフの木蘭のレビュー・感想・評価

4.7
 夫の妻に対する不安や不審、混乱、そして諦めきれない愛情を煮詰めた様な、美しくも切ない物語。
 夫婦を演じるハイス・ナバーとレア・セドゥが素晴らしく、心奪われた。
 特に、レア・セドゥ・・・恐ろしい子!

 海の男たちに語り継がれてきた寓話の様な話かと思ったら、こじらせた夫婦あるある物語で、それが1920年代の欧州を舞台に(コスチュームプレイとしても楽しめる)、深く美しく豊かな映像で描かれていく。
 ゆったりと落ち着いたテンポで、一つ一つのエピソードを丁寧に描いていくのだが、全編異常な緊張感に満ちているので、2時間49分という長尺を感じさせない。

 主人公の夫の側からの視点でしか描かれず、妻の行動は表層的にしか描かれないので、彼女が何故そうしたのか?何を思っているのか?という事が全く明らかにされない。それ故に観客は主人公の気持ちをサスペンスとして見せられる。あの感じは物凄くリアルで痛い・・・。
 愛に捕らわれているが故に、妻の行動に傷付き、怯え、いつものようにマッチョに振る舞えば物の数では無い恋敵(?)に翻弄されてしまう・・・あれが男です。
 妻の内証が語られないとは言え、端から見れば「ああ・・・もう!」と察する部分は多いし、女性なら色々と思うところもあるだろう・・・。

 子豚の例え話で語られていたけども・・・自分とは全く違う目で世界を観ている存在がいるんだ・・・という事を"教養"として理解していないとダメだよという話でもある。
 自分と違うが故に、心を奪われてしまう・・・という話でもあるんだよなぁ。

 ・・・なんかね・・・観終わったら、自分の凄く深い部分が傷付いている事に気がついた。
 ビターな大人の寓話だった。
木蘭

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