よしまる

ベルイマン島にてのよしまるのレビュー・感想・評価

ベルイマン島にて(2021年製作の映画)
4.0
 ベルイマン・エステート。

 イングマールベルイマンが数々の映画を撮り自身も生涯を過ごしたフォーレ島には、彼の自宅や仕事場などが残されており、世界のアーチストたちに解放されている。申請すればそこで2週間以上2ヶ月以内滞在し、インスピレーションを得て仕事に没頭できるというシステムだ。

 監督のハンセンラブも、この制度を利用して幾夏かを過ごし、そのまま彼の地を題材に映画化したのが本作。

 ベルイマンへの大いなるリスペクトを感じさせるけれども、けしてベルイマン風の映画というわけではない。スウェーデンの小島を舞台にしながらも、中身はどうみてもフランス映画。フィンランドを舞台にしながら日本映画であった「かもめ食堂」みたいなもん、と言えば伝わるだろうか。

 前半はベルイマンの足跡を訪ねるツアーの様子だったり、彼の映画の小ネタ連発でとにかく楽しい。
 主要作はだいたい観たよという方を前提としているので、観たことない方には退屈な極まりないと思う。
 初めてフォーレ島で撮影した「鏡の中にある如く」や、ドラマ「ある結婚の風景」、あと「仮面ペルソナ」や「叫びとささやき」あたりを観ていれば、とりあえずは楽しめるので、予習すると良いかも。
 逆にそこでベルイマンの切り取った風景に惚れることがなければ、この映画も観る価値はないと思われ。

 すっかりイケオジと化したティムロスと、つい最近「オールド」で見かけたヴィッキークリープスのふたりは歳の離れた映画監督同士のカップルで、ハンセンラブ自身と、かつてのパートナーオリヴィエアサイヤスをモデルにしている。
 だからかどうかは知らないけれど、信頼し合っている二人がクリエイティブな部分で小さな衝突を起こしたり、好き、嫌いとはまったく別のベクトルである価値観のわずかな違いが軋みを生んだりするのが妙に生々しくリアルすぎて痛い。
 この衝突が、家庭を顧みず奥さんは取っ替え引っ替えして子だくさんというダメオヤジなベルイマンの存在と、それでも創造力をかき立てる雄弁な北欧の自然によって、次第に変貌していくのが興味深い。

 そして後半は、主人公の女性映画監督の創造する劇中劇が展開する。唐突に比重が強まるのでかなり戸惑うけれど、これはこれで悪くない。ティムバートン「アリスインワンダーランド」のミア・ワシコウスカの熱演と、スウェーデンのアイドルABBAの楽曲のシンクロ度もすごく、こうした泥臭い恋愛ドラマをフランス人にやらせたらさすがとしか言いようがない笑

 最後は現実と劇中劇がクロスして多層構造に面食らったりもするのだけれど、そんな夢うつつな部分も含めて、ベルイマンの遺した魔法のような空間に不思議と吸い込まれてしまう。
 映画そのものよりも、この景色を劇場で観れたこと、つまり監督と同じようにベルイマンに魅せられた者としてはこのくらいのスコアをどうしても付けてしまう。

 冒頭、島についた主人公は、この偉大な天才の足跡に触れるなり圧倒的な絶望を感じていた。映画監督は誰しもそうした敗北感と闘いながら、でも創造することをやめない。
 ベルイマン島というまるで結界のような場所が、今後もさまざまなドラマを生み出させてくれるのかと思うとワクワクすると同時に、自分もどうしても行きたくなった。

 以下、余談ですが💦

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