Habby中野

名探偵コナン ベイカー街の亡霊のHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

徹底的なまでの「血縁」への意識に恐れ入った。ただ政治的な問題提起かと思えばそうではなく、その血の連鎖に呪いも、信頼も愛も乗せること、もっと言えばその血の流れない人工頭脳の自壊までもを描くことは、この上ない人間讃歌なのだと思う。たしかに、人間が人間として生きてこその謎であり、推理であるとしたら、これから100年先も”名探偵”は人間でしかあり得ないな。
しかもその血縁の継続/断絶をテーマに、ゲーム内での探偵(新一)─現実での優作が、切り裂きジャック─その子孫の罪を咎める……さらにはそのゲームを支配するノアズアークと生みの親のヒロシ(彼は人工頭脳を「友達」と呼んでいたが)、その実の父であり殺人事件の被害者である樫村、犯人でありヒロシの育ての(?)親であるシンドラー。あらゆるレイヤーで血縁/非血縁の”親子”が配置されているのは、美しき技の妙だとしか言いようがない。
それから、ゲームの世界への入り口が二段階なこと、その進入に紛れもなくSFでもミステリーでもない、ファンタジーの手触りがあったことも、あまり気づかないでいた「コナン」の作り手の意識のようなもの一端を知ることができた。特に冒頭、ヒロシが同級生と公園で遊ぶことはないと語られた後、命を投げるべく彼が飛び出したベランダに置かれた滑り台とブランコ、それだけで彼の運命の悲壮さの全てを物語るあのカットは素晴らしすぎて言葉も出ない。
そうした発想や演出もさることながらやはり白眉は脚本で、このテーマ的で複雑な物語を完全にエンタメとして掌握している。ゲーム内序盤ですれ違う不思議な浮浪者が口ずさむ意味深な歌が伏線なのは”ゲーム的”にはあるとして、しかしそれが”本来いるはずの協力者ホームズがノアズアークによってバグ的に改変されて不在とされたように思えたものの、実はその浮浪者こそがホームズでありノアズアークは完全なる悪意でコナンたちを敗北に追いやりたかったわけではなく真の意図があったため、最終盤にこれまた”バグ”として彼を登場させ救いの手を差し伸べさせた”という到底子どもでは理解が追いつかないような複雑な構造を、それでも納得感のある形に─つまり理解にも勝るカタルシスを生み出している。
しかしながらやはりアニメーションとしては不満があり、特にメカニカルな部分はCGなしで見たかったこと、台詞や構成は仕方ないにしても全編に渡る緊張感ある良いシーンでも説明性に傾いた広めの画ばかりを使用するのは、全体が良かっただけに残念だった、と言うのは……あまりにもクソ大人の戯れ言すぎるか。でもあるシーンで元太の身体の全パーツのサイズが崩壊していてさすがにめちゃくちゃ笑ってしまった。
エンディングで、おそらくロケハン時に撮影した実写のロンドン映像が加工されて出てきて突然のガイナックス感に頬が弛んだ。
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