うえびん

崖上のスパイのうえびんのレビュー・感想・評価

崖上のスパイ(2021年製作の映画)
3.6
明けない夜はない

2021年 中国作品

舞台は1934年、冬、満州国のハルビン。ソ連で特殊訓練を受けた共産党スパイ・チームの男女4人が、極秘作戦「ウートラ計画」を実行するために現地に潜入する。目的は、日本軍の秘密施設から脱走した証人を国外に脱出させ、日本軍の蛮行を世界に知らせること。しかし、仲間の裏切りによって共産党の天敵・ハルビン警察庁特務警察に計画内容がばれ、リーダーの張憲臣(チャン・シェンチェン)が捕まってしまう。

残された王郁(ワン・ユー)、楚良(チュー・リャン)、小蘭(シャオラン)の3人と、彼らの協力者となった周乙(ジョウ・イー)は、八方塞がりの危機を突破し、命がけでミッションを完遂を目指す。

真っ白な雪景色の中で繰り広げられる、逃走劇、格闘、銃撃戦、心理戦、カーアクションなど、目まぐるしく展開する物語は面白かった。ロシア風の洋館が立ち並ぶハルビンの街の様子やクラシックカーなど、時代の雰囲気も堪能できる。

敵と味方が入り混じるので、理解が追い付かなくなる場面もあったけど、最後には無事に着地。共産党と特務の駆け引きは、最初から最後までヒリヒリと張りつめた緊張感を感じさせられた。ただ、夫婦とその子ども、恋人同士の関係性は、背景描写が薄すぎて感じ取りきれなかった。なんだか、そのくだりだけが浮いていて、昭和人情ドラマチックに感じてしまった。

作中に描かれる特務警察の超監視体制。特務警察、共産党、双方の組織に組み込まれる工作員や内通者。それから80年以上経った現在でも、中国では共産党や軍だけでなく、2億台以上もの監視カメラで市民生活が監視され、スマホの情報が収集されて国民一人ひとりを格付けされているとう。当然、本作の上映にも厳しい検閲がかかっているものと思われ、エンドクレジットには「勝利のために命がけで戦った、革命の先人たちに、この映画を捧ぐ」といった言葉が流れる。

「ウートラ計画」の“ウートラ”とは、ロシア語で“夜明け”の意味だそう。

1949年に中華人民共和国が建国され、中国共産党が政権政党となり、その後、毛沢東の文化大革命があり、鄧小平の改革開放路線を経て、習近平の現在に至る。今年の7月1日には「反スパイ法」が改正され、スパイ行為の定義が拡大されている。

果たして、中国の人たちにとっての夜は明けたのだろうか。
うえびん

うえびん