KANA

お早よう ニューデジタルリマスターのKANAのレビュー・感想・評価

4.0

小津愛に溢れた『PERFECT DAYS』の余韻が残るうちに、追い小津安二郎。

戦後、電化製品が少しずつ普及していった時代を背景に、新興住宅地での人間関係の煩わしさと可笑みを描く。

出てくる中学生たちや小学生の弟くん、まだまだ無邪気で可愛い。
おなら遊び。
それで秀でるためのアホアホな努力。笑
そんな、ハズシを入れる小津さんの計算されたセンスがニクイ。

距離が近すぎる奥様方の近所づきあい、これが至って昭和レトロ。
あれがああでこれがこうで…噂通り事情が繋がって、生で見て確認して、時に誤解を生んで、でも突き放せなくて。
良くも悪くもこんなベッタリな近所づきあい、今は見当たらない。

テレビが欲しくてたまらない兄弟の、大人への抵抗。
彼らからしたら、
おはよう、こんにちは、いいお天気ですね…は余計なこと、か。
私も子供の頃、早く帰って夕ごはん食べたいのに母がいつまでも井戸端会議をやめないのを同じように感じてたな…と思い出した。
そして和製アラン・ドロン、佐田啓二がそんな子供たちに言う台詞、
「無駄があるからいいんじゃないかな、世の中」
これが柔らかく沁みる。
きっと十分に私も大人になったんだ。(←桜井さん風)

『秋刀魚の味』同様、鮮やかカラー(しかもデジタルリストア版)でローアングルの小津調を堪能できてとてもよかった。
住宅の奥に見える緑の土手。その上を、下を、人が行き交う。この構図がなんとも美的。そしてたまらなくノスタルジック。
学校の教室、団地の廊下、ネオンサイン、原色小物…等々はモダンアートであり、北欧テイストにも感じられた。
子供たちのセーターやジーンズを始めとするファッションはノームコアながら、大量生産モノじゃない、きちんとしたお洒落感がある。
ラストカット、陽光の元に干されたおパンツがドーンと3枚並ぶ完璧な構図。
これも愛おしい日常の美。

本作は悲哀やわびさびというより、ほのぼのした平和な情感を得られる。
俗世を描いてるのに泥臭さは一切感じさせないのがさすが。
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