塔の上のカバンツェル

セルビア・クライシス/セルビア・クライシス~1914バルカン半島の危機~の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

3.5
去年観てたの忘れてた。

第一大戦期のセルビア王ペータル1世の半伝記映画。
ペータル1世を中心に、戦果に巻き込まれる少年、一介の兵卒などの視点も交えて、セルビアの象徴的な苦難を時系列に描いていく作品。

1000万人以上の人命が失われた第一世界大戦は、セルビア人青年による1発の銃弾によってもたらされたわけだが、セルビアも大戦によって130万人が死亡したとされ、およそ人口の1/4を失ったと言えるなど甚大な損失を被った。

本作では、開戦後の象徴的な出来事をその場に居合わせる国王と、各個人の視点で描くわけだけど、ペータル1世が銃を取って戦うなど(史実として銃撃戦に巻き込まれたのは事実なそうなので、脚色の範囲とも言える)、ペータル1世の賛美と若干のプロパガンダが伺える。
ただ、セルビア人にとってペータル1世が名君だったのは確かだったようで、ペータル1世を演じるラザル・リストフスキーが漂わせる苦悩の表情と威厳も相まって、全体的に手堅く纏まっている印象を受けたのと、何より終盤に向けて悲惨な退却戦を亭するので、悲壮感の方が記憶に残る映画とも言える。

【映画の前半部】

セルビアへのオーストリア=ハンガリー帝国の宣戦布告によって始まったww1なわけで、序盤の見せ場のひとつにセルビア軍の砲撃戦が用意されている。
1914年時点では、オーストリア=ハンガリー帝国軍の意図に反して、3度の攻勢はいづれも失敗した上に、22万人の損害を被るという、セルビアにとっては大きな成功を収めた大戦初期であった。

開戦と同時に復帰したペータル1世の人情劇と共に、楽観のムードも漂う。

【映画後半分】

対して映画後半は、山脈を踏破する台撤退戦の悲惨さが描かれる。

オーストリア=ハンガリー帝国軍の1915年の度重なる失敗(ポーランド戦役におけるロヴノでの敗北)を受けて、東部戦線の作戦主導権をドイツが握ることとなり、総司令官のマッケンゼン指揮下の30万人と同盟国側に立って参戦したブルガリアは、一連の戦いとチフスの流行で弱体化したセルビア軍20万人に対して、攻勢を開始した。

ドイツ第11軍に追い立てられたセルビア軍と民間人は、160kmの山脈地帯を悲劇的な行進によりアルバニアへと逃れようとした。
ここの極寒の地での場面では、悲惨で数千人が死亡したと言われるこの撤退戦はセルビア人の記憶に刻み込まれているそうな。

アルバニアに到達したことを示す白い砂浜は、象徴的な描写でありつつ、ペータル1世の悲嘆がヒシヒシと感じれる。

連合軍の艦船によってコルフ島へ撤退したセルビア人達であるが、その後も飢餓による死者数も多数出すなど、中々に厳しい史実。


ハリウッドやロシアの独ソ戦映画とは違い、欧州の中小国産の戦争映画がここ10年多数作られるにつけ、中々に粒も揃ってきた感。
第一世界大戦というテーマが欧州人に取って如何に忘れ難いものなのか、伝わってくる。