半兵衛

十字架の男の半兵衛のレビュー・感想・評価

十字架の男(1943年製作の映画)
4.2
前作『ギリシャからの帰還』はまだ戦意高揚映画としての形があったが、この作品においてロッセリーニ監督はとうとう開き直ったかのように厭戦路線へと舵を切っていく。一応実在したとされる敵味方関係なく救助した従軍司祭を表彰するドラマではあるが、そこにあるのは名誉や労りではなくいくら主人公の司祭が頑張っても人がどんどん死んでいく地獄の状況。司祭がキリスト教の教えを守りまたヒューマニストを貫こうとすればするほどその理不尽さが際立ってくるのが皮肉。

敵(ロシア)側の人間も悪く描くことなく人間として深く描写する様子に監督の人間に対する深い洞察が汲み取れるが、そんな彼らも主人公の目の前でむなしく消えていく。

ラストの死にゆく主人公の前に現れる敵味方が戦争に向かって走っていく映像は、個人ではどうしようもない戦争という大きな虚無感が観客にもたらされる。彼と一緒に倒れているのが怪我と戦争のストレスで狂乱する兵士というのがまた…。

銃弾や爆撃はおろか火炎放射器まで繰り出される戦闘シーンの迫力も凄まじく、それが逃げまとう主人公や庶民たちの無力さを強調し空しさを増幅させる。

ちなみに主人公たちがソ連に捕らえられる場面があるが、そのとき自分たちの質問に反抗的な兵士に容赦なく「コミンテルンに反抗的な人間」というレッテルを貼り事務的に処刑していくのが滅茶苦茶怖い。こんなのを見せられたらなぜイスラエルがロシアからの降伏要請を徹底的に拒否しているのか自ずと解ってくるはず。
半兵衛

半兵衛