河

春原さんのうたの河のネタバレレビュー・内容・結末

春原さんのうた(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

おそらく主人公が春原さんを亡くしていてその霊を見ている。それもあるのか、主人公が周囲の人に基本的に気を遣ったあたりさわりのない対応をするのもあるのか、主人公の周囲は主人公を気にしつつもかなり気を遣った振る舞いをしていて、何か会話の間に距離感、空気の層みたいなものがあるような感覚がある。その空気の層みたいなものが明確に現れるのが、周囲の人が一方的に主人公を撮る前や一方的にセリフを練習しようとする前、主人公の家を訪れた後などのあのまわりくどい頼み方になっているように思う。ただ、撮ることも話しかけることも訪れることもその行為自体はある種自分都合のものになっていて、その気遣いとは対比的に感じられる。主人公は風を通すために家の扉を開け放していて、それらを全てただただ受容する。そしてその気遣いが距離感を生むのに対して、その自己都合の行為は距離感を縮める。
そしてさらにカメラにも主人公に対する同じようなある程度の距離を保つような気遣いがあり、それが映画内での主人公の撮影と重なる。それと同時に映画的な美しいショットや主人公が誰にも気遣ってない瞬間を盗み撮りしたようなショットがあり、それがカメラのエゴで自己都合なんだろうと思った。カメラが主人公の生活を中心的に映すのも、その主人公が全てを受容するような存在だからだと感じた。もし主人公が家の鍵をかける人だったら家の中は映さないんだろうと思った。
最後は、車の中に4人が座っているっていうシチュエーションで、ほとんど自分の欲求を他者に出さなかった主人公の漏らした行きたい店の話を主人公が寝ている中していて、その寝ている主人公をカメラが映すっていう、主人公とカメラ含めた周囲との距離感がなくなったような感覚で終わるように感じた。
また、家に上がった後の手洗い、その手洗いを使う許可をもらう、リコーダーを拭く、マスクを付け直すなど、コロナ以降のマナーを登場人物全員がかなり厳密に守っていて、それがコロナ以降の気遣いとそれによってできる距離感や自分を隠す感覚としてこの映画での他者との距離感と響き合っているんだろうなと思った。
河