三隅炎雄

日蔭者の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

日蔭者(1972年製作の映画)
3.9
鶴田浩二が主演した最後の着流し任侠映画。軍人とやくざがつるんで農民から土地を買い叩き軍需工場を建てようとする。前の『着流し百人』に続き画面から如実に低予算化が見て取れ、流行り廃りの厳しさを感じさせる。あっとなるのは、山下耕作が共働者鶴田浩二と着流し任侠映画に、もう自分たちが築き上げて来た時代は終わったと、引導を渡す内容になっていることだ。
いつもは組や兄弟分のために真っ先に命を捨てる役割の待田京介が、ここでは策謀を巡らし組織をひたすら内部崩壊させようとする悪魔的な人物として魅力たっぷりに描かれている。一方、鶴田の兄弟分葉山良二の妻を演じる加賀まりこは着流し任侠映画の画面に馴染まず、場違いな違和感だけがあって困惑させる。その異物の加賀が、破壊者待田の悪魔と化学反応して、やくざ組織を内側から崩壊させる役割を共に担いだす展開が怖ろしい。男たちの美学を支えるために専ら存在した任侠映画の女たちからのジャンルへの復讐というのか、着流し任侠映画への刺客として、加賀まりこがキャスティングされていることがわかる。『仁義なきヤクザ映画史』中の加賀まりこインタビューに、加賀が楽屋の鶴田に挨拶に行っても無視され、撮影中も嫌がらせを受けたとあるが、映画の内容を鑑みるとそれは象徴的な出来事でもあった。山下耕作は、ここで鶴田浩二に自ら「カビ臭いやくざ」とまで言わせ、万感の想いを込めてその死を描くのだった。

鶴田主演作としてこの映画は『着流し百人』と『三池監獄 凶悪犯』(共に監督小沢茂弘)の間に位置する。前者は低予算の着流し任侠映画パロディ、後者は後の松方弘樹「脱獄」三部作に繋がる実録映画ふうのドギツい暴力映画だから、鶴田にとってこの作品が持つ重さがよく分かる。
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