半兵衛

うずく人妻たち 連続不倫の半兵衛のレビュー・感想・評価

うずく人妻たち 連続不倫(2006年製作の映画)
4.3
今村昌平の『黒い雨』にスタッフとして参加したことをきっかけに映画界に入り、その後はピンク映画の大手製作会社である新東宝映画でプロデューサーや脚本家として活躍してきた福原彰の監督デビュー作品。ちなみに福原が何作かプロデュースやスタッフとして一緒に仕事をしたピンク映画のベテラン監督深町章が、福原のデビュー作ということでプロデュースを手掛けている。

成瀬巳喜男の『浮雲』を思わせる不倫劇を、福原監督は初めてとは思えない堂々とした演出と人間の業をじっと見つめるような鋭い観察力で単なるエロ映画を越えた一流の人間ドラマに仕上げた。またピンク映画である以上絡みのシーンを複数回入れなければならない制約を逆手にとり、ベッドシーンの最中に登場人物のバックボーンを描いたり物語の流れを組み込んだりしてエロとドラマが融合した無駄のない語り口として昇華することに成功している。

主人公二人の12年の歳月を隔てた不倫物語の構成、男女を演じる役者の名演もあって映画に奥深さを加えている。12年前はひたすら軽薄で、自分の小説に自信を持っていたが、今ではまったく小説が書けなくなり妻に愛想をつかされ借金まであるダメ男の岡田智宏。12年前は不倫に溺れていたが、娘の死などを経て農家のおばちゃんになって平穏な暮らしをしている女性の佐々木麻由子(熟女っぽい顔立ちもハマっている)。前半と後半の対比が物語が進むにしたがってじわじわと効いてくるのだ。特に男のほうはキャラづけといい自殺しようとするもすぐにあきらめるたり、別れた女に未練たらたらに迫ったりするところなど『秋津温泉』の長門裕之を思い出してしまった。

でもこの映画を引き締めているのが女の旦那の存在だろう、前半は全く姿を見せず12年後の現代にペンション(かつて二人が不倫していた場所)を夫婦で訪れる。そのとき偶然出会った知らないはずの岡田智宏を見る目に違和感を覚えるものの、それでも平穏に妻と会話する彼の姿は単なる道化にしか見えない。それがラス前旦那が思いの丈をぶちまけることで、一気に世界観が変わる展開の妙。そしてそれでも妻を愛し現在の生活を守りたいという旦那の現実から目を背けない強さに感動。

そこからラストまでの不倫の代償を受けるかのような二人に訪れる甘さのない、アダルトな苦味と現実の重みが溢れる結末まで一気に見てしまった。不倫は所詮不倫、今隣にいる人を守ることが重要ではないのかというメッセージが心に残る。

あと不倫に対する男の都合のよさを体現する岡田やなかみつせいじの演技、岡田の妻役で夫への絶望と小説を書けない夫にどうすることも出来ない苦しみを体現する里見瑶子の演技も映画を盛り上げる。
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