YasujiOshiba

田舎女のYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

田舎女(1953年製作の映画)
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日本版DVD(コスミック出版)。23-78。このタイトルは日本未公開。イタリアでは評価が高く、ナストロ・ダルジェントの最優秀映画賞に輝いた作品なのだけれど、日本語版は2001年にコスミックの『十字架の男』のなかに収められたのが最初。

いや面白い。モラヴィアの短編が原作。脚本はジョルジョ・バッサーニ、サンドロ・デ・フェオ、ジャン・フェリー、そしてマリオ・ソルダーティの手によるもの。これがうまい。謎めいた冒頭。質屋に宝石をもってゆく夫人。それが偽物とわかるときの意味深な目。太った謎の女。母親。そして事件が起こる。

なぜそんなことがおこったのか。ここからフラッシュバックなのだけれど、それが黒澤明の『羅生門』(1950)の影響なのか、複数の主観が交錯。交錯しながら一つ一つのピースがはまってゆき、冒頭のシーンへともどってゆく。みごと。

冒頭がよい。窓が開く女。時計にちらりと目をやるとピアノに向かって激しい旋律を弾き始める。音楽は、ヴィスコンティの作品で知られるフランコ・マンニーノ(ルキノの妹ウベルタと結婚している)。カメラがゆっくりと引いて通りに出れば、道ゆく馬車は人々の姿にオープニングクレジットが重ねられる。

カメラはそのままパンしながら通りの反対側に向き直すと、そこには物語の舞台となる小さな邸宅。入り口から出てくる端正な女性の後ろ姿。窓から「どこに行くの、ジェンマ」と興奮した声がかけられる。カメラが追いかける婦人ジェンマは、ジーナ・ロッロブリージダが依代となった多くの登場人物の中でも特に記憶に残るもの。

美しく、憂いを帯びたジェンマが、いかにしてあの事件を起こすことになるのか。かつては若くはつらつと陽気なその姿が、やがて運命に翻弄され、少しずつ道を外れてゆく様を、われらがロッロがみごとに生きてみせる。

かつての友人で今は医者のパオロをフランコ・インテルレンギ。物理学者で夫のフランコにガブリエーレ・フェルツェッティ。そして、なによりもあの怖い怖いルーマニアの伯爵夫人エルヴィラの依代となったのがアルダ・マンジーニ。彼女の演技がすさまじく怖い。その怖さがロッロの魅力を引き立てる。みごとな配役。みごとな演出。

ロッロのジェンマは、この土曜日にぜひとも語らなければ。

追記:
それにしてもだ。「田舎女」というタイトルはどうなのだろうか。La provinciale は「地方の女」という感じだろうか。ペンション経営者の娘とはいえ、貴族たちも親交があり、世界的な物理学者の妻になるわけだから、田舎者ではないのだよね。けれどもローマのような大都市へのあこがれもある。それが「provincia 」。
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