Rick

アリスとテレスのまぼろし工場のRickのレビュー・感想・評価

3.3
 青春の、恋の、人間の痛々しさを描かせたら、本当に嫌な痛々しさを描く岡田麿里の最新作だが、必ずしも岡田麿里の作劇やニュアンスが好きでもないので、今回も不安だったが、結果的にも好みではなかった。ただある意味で、なぜ岡田麿里が苦手なのかが、よりはっきりとわかった部分もある。精神的にも、身体的にも成長過程にいる若い人たちの悩みや未熟さは確かに独特のもので、通り過ぎた者たちからすれば良さや、懐かしさを感じるものだ。もちろん監督としての岡田麿里はそこを「リアルに」描くのが得意で、ご自身でもそこをテーマに据えたいと思うのだろう。ただリアルなようでいて、妙に露悪的に感じてしまうところもある。男同士のじゃれ合いの嫌な感じはリアルであるし、実体験に即して心底嫌な気持ちになる。ただそれだけでもない部分もあるはずなのにそこは描かない。また恋や愛という話になると途端に、性的で煽情的で、駆け引きめいた行動を中学生にさせたり、そういう言葉をあえて言わせたりする。皆が荒ぶる季節のみに生きているわけではないぞと言いたい。臭いや性衝動などこれまでアニメという空間では描きづらかったものを描くのは挑戦的で良いのだが、ただそれを「リアルに」描くのではなく、人間讃歌に踏み込んでいってほしい気もする。すごく良い演出と、すごく嫌いな言葉遣いや言動との高速反復横跳びの末、結果的に嫌な感じが残ってしまった。
声優陣の演技は悉く良い。やはり上田麗奈の大人びていて自信があるように見えて、その実誰よりも怖がりな人物造形、榎木純也の弱そうでいて主人公的な行動を取れる真の強さのある声、久野美咲の聞く人の魂を鷲掴みにする叫び声など、それだけでも見る価値がある。
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