平田一

アリスとテレスのまぼろし工場の平田一のレビュー・感想・評価

4.2
高畑勲監督の『おもひでぽろぽろ』のアプローチ(現在と永遠に時が進まない過去とか)、”子宮“という自閉空間を扱った『コズモポリス』(デヴィッド・クローネンバーグ監督)、『トゥ・ザ・ワンダー』(テレンス・マリック監督)が扱った”愛“ってものの在り方と、大好きなインディーズ・作家性に溢れた鬼才が手掛けた映画と通ずる匂いを宿していたのがまず嬉しい。しかもそれが今一番勢いのあるMAPPAさん(「チェンソーマン」)(「呪術廻戦」)と岡田麿里さん(『さよならの朝に約束の花をかざろう』)の挑戦的映画で観れたのが尚更。

一体どこへ向かっていくのか全然予測がつかなくって、狼みたいな女の子が一体何かも分からなかった。そしたらスッゴくヒリついていて、心と体でぶつかりあってボロボロに傷つけあってく“初恋”のお話で、苦いんだけど嬉しい苦みをくれた素敵な映画です。特に映画の真の主役・五実がとにかく凄まじく、彼女が体験する変化には何度も泣いてしまいました(詳しくは本編を絶対に観て欲しい)。しかももはや五実にしか聞こえない久野さんが今年観たあらゆる演技を凌駕しまくる熱演で(クライマックスの「大嫌い」とラストシーンは泣きました!)、個人的には今年度ベストパフォーマンスです!

もう一つ、この映画の好きなところを伝えるのなら、幾重ものメタファーに出会える映画なところかな。人によってはテーマも見方も、ましてや焦点も変わる。だから人と違ったイメージ・見つける言葉も変わってく。ボクだったら「村社会」や「同調圧力」への冷笑、未来は誰にも止められないし、止まることを許さない(とか)……こういうのはものスッゴい名作だけの印象で、それこそテレンス・マリックやスタンリー・キューブリック、日本だったら今は亡き大島渚のイメージです。それを日本のアニメーション、ましてや令和という現在に、そんな映画が生まれた上に観られるなんて光栄です(とてもじゃないが一度だけで咀嚼は難しいですがw)。

とにかくまたもやリピートしたい劇場アニメに会えました。PSYCHO-PASSやアクロス・ザ・スパイダーバースとか今年の劇場アニメーションは中毒レベルが高すぎる。そこに新たに『アリスとテレスのまぼろし工場』追加なんて映画館に何回通えば気が済むんだよホント(有難い限りです)w ノベライズもどこかで買って、まだまだ堪能したいしなあw


【スゴく思ったこと】
佐上衛ってオッサン、『ミスト』に出てたミセス・カーモディってババアを思い出したw


【一番劇中で抉られて言葉をなくした場面と台詞】

「今、私……恥ずかしくて、恥ずかしくて逃げたいよ。好きな気持ち……見世物になった」

スゴく勇気を振り絞って告白したクラスメイト(誰かはちょっと言えません)がまさかあの後あんなことになるとかショッキング過ぎる……
平田一

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