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アリスとテレスのまぼろし工場のmemのレビュー・感想・評価

3.7
青くて苦味を伴う憶えのある痛みが、鳩尾のあたりをずっとぐるぐると廻っていた。「恋」の感情を大きく突き動かす衝動性が、「幻の世界を破壊するもの」として象徴的に投影されることは必然であると思った。キスとか結構生々しくて、生と性が非常に密接であった印象。この"生々しさ"が人間らしさということだったのかな。好みはわかれそう。

「好きってなんだ?」という正宗の問いに唯一解は無く、登場人物みんながみんな違う「好き」の中でもがき苦しんでいた。恋は片割れのように暴力的なまでにエゴで独りよがりなものだけれど、それでも、そこを乗り越えてでもどうにか思い合おうと手を繋ごうと努力する人と人の間にようやくその2人だけのひとつの輪郭を持つのではないか。彼らを見てそんなことを思った。

生きていること、と、生きることのニュアンスの違いなど、台詞でちゃんと説明的に描かれている箇所が多く私は初見でもわかりやすいと思いました。
"自分確認表"、自分ならなんて書くかなと考えたけど、既存の文章や言葉に自己を当てはめなければいけない、しかも変化は悪となると、それはもうなんだか自己消滅に陥る。(絶対に生まれることのない赤子を身の内に宿し続ける妊婦さんが1番しんどかったな)
心を殺せばドキドキもハラハラもしない。変わらない安心と安寧。でも、それでも生きてるって、言えるの?という生の根本。

変化しない閉塞的な世界でも、夢や愛を見つける中で、生きていることを肯定"し続けたいと願う"希望が痛くて鮮やかでした。一緒に居たいから痛い、好きで大嫌い、、わかる、わかるぞ、、、今死んでもいいと思えるくらいなんて嘘みたいだけど、その瞬間はひたすらに本物なんだよなぁ。
光の描写、色彩、建築・景観、物悲しくただただ美しかった。そこに在る、という感覚だった。
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