故ラチェットスタンク

アリスとテレスのまぼろし工場の故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

3.4
 世界から隔絶された街を蜃気楼が覆うというコンセプトを見てピンと来た。そうだ。これは『フリクリ』フォロワーの所業に違いない(違う)。

 -毎日、決まった時刻に吐き出される白い煙が、僕には何だか不吉な狼煙のように見える。それはうっすらと広がり、街を覆っていく。

 1991年、というか"あの瞬間"に取り残され停滞した日本というモチーフを扱うと言う点において、両者は20年の隔たりを持ちながら似た精神性を有している。『フリクリ』とそれに付随するあの空気をこよなく愛する者として、同志を確認できて満足である。

 また、コロナ禍、もしくは失われた30年の空気を胸一杯に吸いながら青春を過ごし、あれよあれよといつの間にか大人になった身としては『アリスとテレス〜』のそれにはより切迫したものを感じた。世界がセカイとなり、"まぼろし"と化した今、我々は情動を揺るがして生を獲得するしかない。

 と、こういった思想は非常にシンパシーを感じたものだが、ハイクオリティなアニメーションの傍、レイアウトやアクションにイマイチ乗り切れず。"痛み"の描写は難儀になるが、もう少し絵として大胆に、崩し絵などにしても良いのではないか、と不躾にも思ってしまった。

 世界観の立て付けもいまいちよく分からず、自分確認表など様々に設定を突っついているのだが詳細が描かれずぼやけて見える。クライマックス、現実が侵食する場面は『NWH』を連想。魔法による輪郭の崩壊(閾値を超えた可能性拡張)を画面に起こす際にあちらはクリスマスのモチーフを採用していたが、今作は盆祭りを採用している。まぼろしを死と結ぶモチーフ。そしてやはり両者とも大人(たち)がそれを「塞ぐ」姿を描いている。これは『フリクリ』においてもそうだった。彼らは彼らなりのバランスを保とうとする。

 色々と行間読みが楽しい作品だと思う。ムードとかが好きな人は資料集など諸々読み込んで複数回鑑賞すると楽しいかもしれません。