06

アリスとテレスのまぼろし工場の06のレビュー・感想・評価

3.8
全体的なメッセージが良かった。コロナ後唐突に広がった世界の閉塞感を、見事「閉じられた村」「変わらない自己」で表現をしていた。
そしてその中で「未来がなくとも、今日を必死に生きることの大事さ」を訴える。

でも、僕はダメだった。生理的に受け付けなかった。ずっとこの映画にお呼びじゃないと言われているような感覚で映画を観ていた。元々岡田麿里の前作「さよならの朝に約束の花をかざろう」も気持ち悪くてダメだったのだ。現代劇だからといってそれは変わらない。(脚本のみの作品は割と好きなので、彼女の純度100%が、どうしても僕とあわないんだろう)

「今日を必死に生きることの大事さ」を訴えるのはいいが、そこに白痴の少女の無邪気さを使うのがまず嫌だ。だってそれ、作られた白痴だろう?幼児虐待を皆で寄ってたかって肯定している構造が気持ち悪い。

それに世界の推移を恋愛感情一つで左右するのも本当に嫌だった。もっと理性的で人間的に語ろうとする人間は居ないのか?「愛が世界の滅亡と直結する」というのはセカイ系のお家芸だが、それをやるには人物をリアルに描きすぎた。絵と脚本の現実感バランスが取れてないのだ。
人物描写も、個々人や小さな輪だけで見たらリアルなのだが、そこに社会としての動きがない。住民は作劇に必要な時にだけ登場する意志のない集団に見える。新海誠の「君の名は」にも社会性はなかったが、あれは子供達が大人を当てにせずこっそり故郷を救おうとする話だから成り立つのだ。自分のエゴのみで世界の行く先を決めようとする複数人の行動に、どうして観客がノれると思ったのだろう?大音量でかかる盛り上がりの激しい曲が上滑りして、滑稽な気分になる。

アニメーションだけは素晴らしかった。繊細な動き、重みの有る身体、実写に負けない表情変化。でも実写ではなし得ない絶妙なカリカチュア。
ただ、動きはいいが胸に刺さるショットは少ない。絵として思い返せるのは、生々しいキスシーンと、横一ロングの花火と列車のシーンくらいだ。「シン・エヴァンゲリオン」のシンジが廃墟で一人蹲る内に日が過ぎる、みたいなアングルの強さが存在しない。そこもすごく惜しかった。特にED前の俯瞰の工場1F。あそこで日が落ちる演出に何の意味があったんだろう。もっと見目の良いロケーションで締めても良かったのではないか?
06

06