ユウ

アリスとテレスのまぼろし工場のユウのレビュー・感想・評価

3.7
時間が進まない世界に閉じ込められた人々を描いた映画。

この映画は悪人と呼べる人物が誰一人居ない。
もし本当に、現実の街が丸ごと閉鎖次元に投げ出されたらこうなるんじゃないか?と思わせるような、興味深い映画。

ただどうしても気になるのはタイトルになっているアリスとテレスが何なのか。
哲学者アリストテレスの言葉の引用や、唯我論的なテーマなど、哲学性を重視していることは間違いないことだが……
実際調べてみるとこれ自体に深い意味はないそうな。
監督の知人が、さも二人の哲学者がいたかのように覚えていたことが面白かったというだけらしい。

だが、哲学性を重んじているのなら、それならそれで、もう少し踏み込んだ小難しい話をして欲しかった。
この作品はなんというか、監督がやりたいことと、娯楽としての妥当性という二つが衝突していると感じる。
この辺が、世間から「気持ち悪い」と酷評される遠因となってはいないだろうか。

まあそんな思い当たる欠点や煮え切らない点はあるものの、優れた要素にも恵まれている。
特に神主である佐上衛、最高のキャラである。現実かどうかより今充実してるかの方が大事と解く精神性が素晴らしい。
詳細は省くが、徹底した女嫌いでありながら愛妻家であったとされるアリストテレスの名を冠す作品に打ってつけな人物であった。
いわゆる敵役、憎まれ役な人物だが、終盤で高所から落下するシーンがあり、その際には「えっ、今ので死んだ!?」と心配してしまうほどだった。
ユウ

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