みかんぼうや

戦場のピアニストのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

戦場のピアニスト(2002年製作の映画)
4.2
こんな素晴らしい名作を「全然面白くない」と20年以上思っていた自分を問い詰めたい、と思うほど、魅力的なヒューマンドラマでした。ホロコースト物としては、「シンドラーのリスト」に引けを取らないスケール感、重厚感、繊細さを併せ持った紛れもない傑作だと思います。

前回の鑑賞は、当時社会人1年目だった劇場公開直後。劇場の大スクリーンで観たのですが、その時は面白い作品だとは思わず(その印象で、今日までフィルマで★3.2をつけていました)、なんなら本作と「チャイナタウン」の印象で、「ポランスキーの作品は自分には合わない」というバイアスまで出来上がりつつあったのです(その後に観た数本のおかげで、むしろ今は“作品自体”は好きな監督)。

当時の自分に刺さらなかった理由は、仕事帰りのレイトショーで観て作品そのものに集中できていなかったからか、それまで他のホロコースト物の作品をあまり観ておらず時代背景等の知識が不十分だったり他の同種の作品と比較できなかったからか、それとも当時は若さ故に勢いのある刺激的な作品や大どんでん返し物が好きだったため、ひたすら逃げ隠れし続ける一見地味な展開と派手さよりも重みのある描き方にやや退屈さを感じたのか。正直分かりません。

今改めて観ると、じっくりと描かれた、ただひたすら生き抜くために逃げ続ける姿の中に見える時代背景と人間ドラマとしての奥深さがなんとも強烈でした。この時代、“逃げ続け生きる”という選択肢よりも、捕まって射殺されるほうがかえって楽なのではないか?と何度も頭によぎるほど、毎日誰かの目におびえ続け、いつ地獄のような日々を抜け出せるかも分からない絶望感。その主人公が直面する悲劇にリアリティを持たせ観客を引き込む演技と、圧倒的なスケール感に溢れる映像力(改めて観ると廃墟と化したポーランドの街並みやそこに1人佇む主人公が描かれた映像が本当に凄い)。

20年以上前に観た時には感じ取れていなかったことが本当にたくさん。前回観た時とは全く別の作品として、その印象も全く別物になりました。これは再鑑賞して本当に良かった。

映画は、その時の人生経験、知識、感性で、その味わい方が全く変わる可能性があることに、改めて気づかされました。そう考えると、10代、20代の時に楽しめなかったあの作品たち・・・観直さないといけない作品たちがまだまだたくさんあるなぁ。
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