うめ

戦場のピアニストのうめのレビュー・感想・評価

戦場のピアニスト(2002年製作の映画)
4.0
 インターネットで無料視聴できたので、ついつい再鑑賞。実在の人物であるユダヤ系ポーランド人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンがドイツ占領下のポーランドで生き抜こうとする物語。

 まず、やっぱりポーランド語が英語になっているのが気になる…。歴史ものってこういう辺りもリアルに作り込まないと、他のジャンルの作品よりも嘘くさくなってしまう場合が多いため、言語を変えるのは極力やめて欲しいのだけれど…でも、今作はポーランド語は英語になっているが、ドイツ語やロシア語といった他の言語はそのまま使用して、しっかり区別ができていたので、まだ良かったかな。あとはドイツ人が話すドイツ語は字幕を出さないという監督自らの演出も良かったですね。でも、英語に変更されていて何よりも良かったのは、フランス・ドイツ・イギリス・ポーランドの4カ国合作で、かつ自らもゲットーに入れられた経験を持つロマン・ポランスキーが監督を務めて今作を作り上げ、それがカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得し、さらにアカデミー賞やその他の賞でも高く評価されたことだろう(この事実はとても意義深いと思う)。英語という世界中で広く使用されている言語を主言語にしたことは、今作が世界に広まり、評価を得た要因の一つだろう。

 シュピルマンの視点は序盤から常に観客の視点とほぼ重なる。窓から覗き込む視点、俯瞰で見下ろす視点はシュピルマンの恐れだけでなく、傍観者のような視点も表現されている。戦況が変化していく様を、シュピルマンはただ隠れてみているしかないし、観客である私達もただ見つめるしかない。ゲットー蜂起やワルシャワ蜂起で、次々と人が撃たれ倒れて死んでいく…。その様子が淡々と描かれている。シュピルマンの覗き込む視点は、終盤の有名なシーンへと繋がっている。窓の隙間から部分的に戦況を把握するしかなかったシュピルマンが外に出たときに表れる、開かれた光景は、何とも言えない。この演出が本当に素晴らしい。

 この淡々とした演出に合わせられるピアノの音色が悲しくも美しく、より際立っている。ピアニストであるシュピルマンにとっても、この音色は欠かせないものとなっている。それは目を逸らしたくなるような現実をひと時でも忘れるためだろうが、それ以上に「人間」であり続けるためだったのではないかと思う。『サウルの息子』を観ても感じたが、「生きるか死ぬかの場に置いて、いかに「人間らしく」あり続けるか」という問題がそこにはあるような気がする。芸術や美しいものを愛でる感覚を忘れないようにするために、ピアノの音色が存在していたんだと思う。

 ポーランドやユダヤ人の状況が時を追ってわかりやすく描写されているので、ゲットーや当時のポーランドを知る上でも良い作品だと思う。ちなみにドイツ兵のヴィルム・ホーゼンフェルト陸軍大尉も実在の人物です。彼の存在も忘れてはいけませんね。
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