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戦場のピアニストのEyesworthのレビュー・感想・評価

戦場のピアニスト(2002年製作の映画)
4.9
【それでもピアノは残っていた】

ロマン・ポランスキー監督の代表作である戦争映画。

〈あらすじ〉
1939年9月、ポーランド。ナチス・ドイツが侵攻したその日、ウワディクことウワディスワフ・シュピルマン(エイドリアン・ブロディ)は、ワルシャワのラジオ局でショパンを演奏していた。街はドイツ軍に占拠され、ユダヤ人をゲットー (ユダヤ人居住区)へ強制移住させるなどの迫害が始まる。やがて、ゲットー内のカフェでピアノ弾きの職を得た彼は、迫害に遭いながらも静かに時をやり過ごす。そんな中、一家を含む大量のユダヤ人が、収容所へと向かう列車に乗せられてしまう…。

〈所感〉
歴史の教科書だけで、ユダヤ人迫害の真相は学べない。『はだしのゲン』で原爆の実態を知る日本人のように、世界市民としてこの歴史の一幕だけは肌感覚で知っていなければならない。この映画は必修科目である。こうした人類の被害者とも言えるユダヤ人達にスポットを当てる作品も沢山あると思うが、この映画は一人のピアニストの男シュピルマンにのみ焦点を当て、事実がリアルに淡々と語られているため食い入るように見ることができる。そうして我々は、逆境に挫けず他者を労ることができるシュピルマンとその家族に反動的な素敵なドラマを期待するが、それは裏切られる形で我々の前に次々と大きな岩が立ち塞がる。序盤から道端で死体が転がっている風景に慣れてしまい、ドイツ人から平気で差別され、家畜のように扱われる姿に目を背けたくなる。これが事実だと思いたくない。私は彼らと同類ではない!と信じたい。
けれども、私はこの作品から、我々は文脈や状況によって当時のドイツ軍のように簡単に他人を殺せる人間になれるのだ、、ということを他山の石にしなければならないと読み取った。一方で、簡単に虐げられるユダヤ人のようにもなれると思った。人間は良くも悪くも環境に適応できる生き物なのだ。
キャラメルをナイフで切って家族全員で分け合うシーンはとても印象的だ。困難は分割せよ。困難も家族の数で割ればへっちゃら…ともいかないのがこの時代の彼らだった。シュピルマンは最後運良く救われたが、大多数のユダヤ人は虐殺されている。もはや彼らが殺されたことに意味などないかのように。けれど、彼らの存在が我々を悪の彼岸にたどり着かせないための北極星となっている。そこに意味はある。パンドラの箱を開けて、過ちを再び繰り返さないために。
シュピルマンが部屋に静かに籠っていて何も起きない時間が幸せに感じた。普通の映画では「頼む!何か起きてくれ!」と発破をかけるのだが、この映画では「頼む!何も起きるな!」と懇願してしまうのが凄い。この時点で映画として完璧である。シュピルマンが奏でるショパンの美しい音色に一瞬戦争を忘れるほどの高揚感を得るが、ピアニストの割にピアノのシーン‎の深堀りが薄いような…

《人種、職業、性の違いで俺はしない判断
てめえに都合の悪い奴を悪と言えば簡単
不変な物で自分勝手に捻じ曲げない哲学
正義は全員が守るもので一人のものじゃねえんだよ》

[BAD HOP「guidance (舐達麻 ジャパニーズマゲニーズDiss) ft. YZERR」より
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