あき

くじらびとのあきのレビュー・感想・評価

くじらびと(2021年製作の映画)
4.5
これは、言葉の無力を感じるほど例えようもなくすごい。
ドキュメンタリー映画として役者もおらず台本もない世界をナレーションもなしに時系列に流しているだけなのに、ひとつひとつのシーンに心洗われそして圧倒される。
漁での事故で大切な人を失った家族。その喪失感による偽りのない涙。村全体でその死を悼み喪に服し、3ヶ月かけて残った家族で新たな筏船を作る姿。
喪が明けた漁で危険を省みず自ら身体ごと投げ打って鯨に銛打ちする勇気。必死に抵抗する鯨が船にぶつかる凄まじい激突音と激しい波しぶき。傷ついた鯨を助けにくる仲間の鯨。一面真っ赤な鯨の血の海を果敢に飛び込んでトドメを刺しに行く男。死ぬ間際に瞼を閉じる鯨。
勝ち取った鯨の肉は未亡人や貧しい者にも分け隔てなく分け与えられ、男性優位ではなく女性も子供も平等に助け合う村人たち。
まるで宇宙空間にいるかと見紛うほどの満天の星。
どれもが素晴らしく、ただただ魅入ってしまう映画だった。
”我々は鯨を殺しているかもしれないが、常に感謝を忘れずに、鯨とともに生きている”
ラストの老人のこのひとことに、その言葉以上の重味を感じざるを得ない。
あき

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