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The Son/息子のiamのネタバレレビュー・内容・結末

The Son/息子(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

ニコラスが抱える心の病は長い時間をかけて複雑に絡まった糸の塊のようなものだと思う。
ぐちゃぐちゃになっているそれがいったいなんなのか、容易には説明ができない。ただただ辛いのだ。
周りはその感情をなんとか解こうと思ってニコラスと接するけど、絡まった糸は簡単には解けないし、場合によっては強引に解こうとする行為が返って絡まりを複雑にしてしまう。

こういった状況と対面したときに、どのような考えを持っていれば、望まない結果を避けられるのだろう。
ひとつ大切だと思ったのは、問題に対して向き合う角度だ。
ピーターは息子に対して正面から向き合っているつもりだが、その反面、ニコラスの抱えている病の複雑性を無意識に「思春期」や「ティーンエイジャー」というラベリングで単純化してしまっている節がある。そんな父と目線が合わないことを直感的に感じているニコラスも場当たり的に対話に蓋をしているようにみえた。
また、精神病棟への入院の決断を迫られるシーンでピーターは、ニコラスを入院させると一度は決断するものの、すぐに再考して退院手続きをしてしまう。
ニコラスの話をひとつひとつ聞くことに徹していたら...
精神科医の話を聞いて、息子が適切な治療を受けることで良くなれると信じることができていたら...
事態の複雑性や深刻性を避けてしまうのは、それと正面から向き合うことが自身の考えを抑えて、他人を信用することが必要で、それがとても難しいからかもしれない。

もうひとつは自分の言葉を持つこと。(「向き合うこと」とほとんど同義かもしれない)
抱えている感情を、自分の納得のいく言葉で表現ができたら、理解できない「辛さ」を少しは軽くできたのかもしれない。
映画の最後でも、息子を失ったピーターが「もしニコラスが心の病を乗り越えていたら」と想像するシーンがある。その世界ではニコラスは幼少期から憧れていた作家になっていて、出版予定の著書は自身の病について書いている。
つまり、ずっと「わからない」と表現していた感情と諦めず向き合い続けていたら実現できていたかもしれない未来を表しているのだと思う。
またこれも完全に個人的な想像だけれど、その未来ではきっとピーターも自身の父親との関係性を「トラウマ」という言葉以上に解像度を高めて、乗り越えていたのだと思う。
彼らが言葉にすることを続けていたら、あるいは言葉を失っていなかったら...と考えてしまう。

いずれにせよ「わからない」ことに早急な答えを求めず、長い時間考えつづけることがひとつ重要なポイントだと感じた。
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