木蘭

The Son/息子の木蘭のレビュー・感想・評価

The Son/息子(2022年製作の映画)
4.6
 老人の痴呆を通して家族を描いた自身の戯曲でデビューした監督が、今回は少年の鬱病を通して描く。

 前作は舞台演劇の手法を映画に移植して今一つ効果的とは言い難かったが、今作は映画の手法で描き切った故に、より残酷さが伝わってくる。
 クリアで清涼感あふれる画面で描かれる社会的にも物質的に極めて満たされた家庭生活が、想像もしていなかった出来事と不安に襲われる様がわずかなピントのさじ加減で映し出されて恐ろしい。
 最高に幸せなシーンですら、決して拭い去る事の出来ない怯えの様なものが画面にまとわりつき、それは次のシーンで現実になる。

 これから起こる出来事はおおよそ想像できるのに、登場人物は勿論、観ているこちら側にもホッとさせる一瞬の油断を誘って、そこから一気に受け身を取れない様に叩き落してくる監督の残酷さ・・・でも、それが作為ではなく現実だというリアリティが胸を締め付ける。

 主人公の父親が息子に思え描く願望や妄想はことごとく打ち砕かれ、嫌悪する父親の似姿である自分を意識するのは大人になった息子の不満であり心の基盤であるのに、それすらもゴリゴリとすり潰してくる物語。
 一流のスタッフとキャストが作り上げた美しくも残酷なホラー映画的作品だった。
 自分に子供がいたら座席から立ち上がれなかっただろうな・・・。

 そんなマッチョで、キレッキレで踊る中年弁護士がいるか!というのは申し述べておきたい。
木蘭

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