backpacker

The Son/息子のbackpackerのレビュー・感想・評価

The Son/息子(2022年製作の映画)
3.0
"完璧な親はいない。そして、完璧な子供も"

心動かされる内容ながら、第二幕クライマックスの"医師と家族"のシーンで呆気に取られたあまり、消化不良なまま終わってしまった印象です。


導入部の第一幕から、急速に状況が悪化していく第二幕ミッドポイントあたりまでにかけては、家族としての個人間の繋がりに、独立した人間としての個人が抱える対立・葛藤構造が上手く絡み合って、加速度的に不穏な面白さを放ち始め、凄くのめり込みます。
登場人物の考えには、それぞれの主張があり、肯定も否定もそれぞれの主観次第。
そこから立ち上がる「正解のない正義」を求めた答え合わせは、一般的には、妥協によって折り合いを付け、時間と共に解決するしかないという課題特性があるように見えますね。
そこに、「多感で繊細で"鬱"になった息子」の構造が乗っかることで、課題克服にタイムリミットが課せられてしまう、その為に、突然一気にドライブしていくこととなった親子の関係性が、この物語のエンジン部分。
各人の過去や考えという要素が、中心軌道をドンドン引き立て、すわクライマックスに突入だ!……となるのですが、その手前。第二幕ミッドポイント以降からターニングポイントまでの間に発生する"医師と家族"のシーンで、「嘘だろ!?」と困惑させられたこともあって、萎えてしまいました。


具体的に言いますと、自殺未遂から緊急搬送され、面会禁止明けに漸くニコラスと再会を果たすシーン。
ピーターとケイトがニコラスと再会すると、ニコラスは二人に「ここから出してくれ」と必死の懇願をします。
このとき、精神科の医師が、家族の対面に同席しており、外に出たいと両親に泣いて訴えるニコラスの目の前で、「彼はまだ退院させるべきではない」と告げるんですよね。
「法的拘束力がないため、退院は両親の考え次第」と言われたピーターとケイトが、決断を下すこのシークエンスで最も重要な部分は、作中重要なタイミングで何度も挟まれたピーターの顔のクロースアップが効果的に使用され、まさにターニングポイントとして印象的です。

しかし、鬱症状でほんの数日前に自殺未遂をし、両親に「ここから出してくれ」と必死の懇願をする子どもの前で、「お前の両親はお前の頼みなんて聞かないぞ」と突き放すような決断を強いる医者の存在に、完全に度肝を抜かれてしまい、それまでの感動が吹き飛んでしまいました。
え、待って待って。マジで?嘘でしょ?
実際こういうものなんですかね、精神科での患者と家族の意思決定の場って。

極限まで心がまいってるどん底状態の最中に、両親に見捨てられたとしか思えない状況に置かれるなんて、とてつもなく残酷なことですよね?
子どものためを思ってこその決断だったとしても、ともすれば裏切りにしか見えないこの展開は、いくらその後心変わりした両親が出してくれたからって、関係ないでしょ。深く傷を残しますよ、心に。
ハッキリいって、あの医者がやってることは、自殺の幇助と言われても仕方がないくらい、強烈な後押しになってませんかね。

そんな展開もあって急激にしらけてしまったことと、結局家に帰る選択をした=口喧嘩にて明かされていた「洗濯機裏に猟銃が隠してある」という置きにきた伏線の回収が明確になってしまったこと、ついでに「まだエンドロールまで結構時間あるな」という逆算もあって、オチが読めてしまったことが禍いして、折角の序盤中盤の良いところが、消化不良気味で幕引きとなってしまいました。

あと、場面転換が頻繁なうえに、親子のシーンよりもピーターが一人で考え事をするシーンが多かったことも、のめり込みきれなかった一因な気がします。
葛藤の物語自体は凄く良かったんですけどね。
backpacker

backpacker