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The Son/息子のmofaのレビュー・感想・評価

The Son/息子(2022年製作の映画)
5.0
【子供への愛は、不確かで絶対ではない】

監督は、「ファーザー」のフローリアン・ゼレール。
2作目にして、またしても、
心に食い込むような作品を、生み出した。

それは、確かに愛だけど・・・。
確かに、愛なのに。
どうして、暴力のように見えるのだろうか。
 暴力のような愛は、
ヒリヒリした痛みを伴う。
 観ている自分も、その愛は、間違いだ・・・・間違いだ・・・と、
画面越しに訴える。
でも、届かない。
何故、分からないのか・・・。
その気持ちは、
きっとニコラスの強い想いと重なる。
期待と失望。失望は、深く、更に深く。
その失望に、
何度も泣ける。

けれど、それと同時に、
自分が正解だとも思えない。
ピーターに違うと訴えながら、
自分を見ているようにも思える。
ピーターは紛れもなく、
息子を愛しているから。

 私の愛は、間違っていないか??

その質問に、自信を持って、
YESといえない。
でも、YESといえないからこそ、
救いがあるのかも知れない。
愛は、不確かで、正解ではない。
 
この作品は、リアルで厳しくて、辛いけど。
学べる事が、沢山ある。
 この苦難の物語は、誰しも経験する可能性を秘めているからだ。
是非とも、心身共に調子の良い時に観て頂きたいと思う。


☆以下、ネタバレです☆

ピーターは、本当に、
ニコラスを愛していたと思う。
でも、凄く、その愛は、
ピーターにとって都合のいい愛だった
と思うんですよね。
ニコラスに寄り添うのではなく、
ピーター自身の気持ちに
向けられたものだった。

ニコラスを愛しているから、心配し、
彼を新しい家にも招き入れた。
 自分の「やってあげた」事が
成果に出ると喜ぶが、
そうでないと、
ニコラスを更に追い詰める。

何故、自傷行為をするんだ?
何故、学校に行かない??
とニコラスに詰め寄る。
 一緒に住んでいた母親(元妻)は、 
限界なんだぞ・・・と言うが。
限界だったのは、ニコラスなのだ。

ピーターがニコラスを
愛しているのは分かるけど、
寄り添えていない事が、歯痒い。
 ピーター自身もまた、
同じように育てられてきたから・・・・
寄り添う方法を知らないのかも知れない。
 それが負の連鎖というならば、
何と、辛い連鎖なのだろうか。

ニコラスは、父親であるピーターが 
家を出て行った事に、
傷ついていた。
 そんな環境はよくある事だ。
けれど、誰もが、
ニコラスのように心に
傷を抱えるワケでもない。
彼は、より繊細だったのかも知れない。

母親は、夫が去り、傷付いていた。
彼女もまた、ニコラスに寄り添わなかった。
ニコラスの傷よりも、自分の傷が、 
深いと信じて疑わなかった。

 ニコラスに居場所はなかった。
実の親と一緒に住んでも、 
満たされない心に、
どれだけの失望感と、
孤独が彼を襲ったのだろう。

父親の望む人間になる為に、嘘をついた。
偽った自分を見て、喜ぶ父親に、
更に失望は深くなる。
父親への失望 そして、
自分自身への失望。

精神科を退院して、団らんの3人だけど。
ニコラスは、
もう「死」の事しか考えられていない。
 息子は大丈夫という妙な安心感。
だから、彼も場所が知っている銃も、
そのままだったんだ。

息子を亡くしたピーターは、夢を見る。
夢に見るニコラスは、それでもなお、
ピーターの求める息子像なのだ。
健康で、彼女がいて、
そして作家として成功している。
彼が欲しているのは、
「自慢の息子」なのだ。

 失った悲しみに暮れ、月日が経っても、
憔悴しているピーターは、
間違いなく、息子を愛しているけれど。

 ニコラスそのものを
愛せていたのだろうか。
全てが完璧な息子を、
求め過ぎていたのではないのだろうか。
その気持ちが、
ニコラスを追い詰めていたのかも知れない。
けれど、ピーターは、それに気付かない。

 幼い頃は、健康で笑顔であれば、
それでいい。
それだけが「愛」だった頃が、 
眩しくて愛おしい。
 同じように、そう想い続けるのは、
困難だと、子育てしている私も思う。
 親の欲が、
シンプルな愛を歪めてしまうのだ。

「ファーザー」にしても、
この作品にしても、
本当にリアルで、嫌になるくらい、
自分に食い込んでくる。
 こういう作品は、
明るい気持ちにはならないけれど、
自分をうつす鏡のようで。
だから、避けて欲しくない。
 
自分の「愛」が絶対でもなく正解でもなく、不確かなものだと。
それを知るだけでも、
解放されるものがあるかも知れない。

娘たちへの「愛」は、
彼女たちに、寄り添っているか?
彼女たちに寄り添うと見せかけて、
自分に寄り添っていないか?
自分に問い掛ける。
ただ、その答えを受け止めれば、
それでいい。
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