EDDIE

流浪の月のEDDIEのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.2
お節介で生きづらい社会。15年前の誘拐事件、世間的にはロリコン誘拐犯。ただ当人同士しか知り得ない真実がある。どんなに想像力を働かせても理解できない。映画として客観視すると彼らを味方したくなるが、実際に起きたら彼らを苦しめる側になると思う。

〈ポイント〉
・凪良ゆう本屋大賞受賞のベストセラー小説が原作
・清純派イメージの強い広瀬すずが新境地開拓の熱演
・松坂桃李はもはや演技派として圧巻のパフォーマンス
・横浜流星は本作における露悪的な立ち位置でMVP級の怪演
・人と人が惹かれ合うということの一つの可能性を見出した意欲作
・答えを出すのは難しい…我々は傍観者かもしれない…だけど観る意義は強い
・『パラサイト』をはじめとして韓国映画で実績の豊富なホン・ギョンピョの撮影が素晴らしすぎる

〈雑感〉
とんでもない大傑作でした。

正直途中まで自分の倫理観とか固定観念が邪魔してモヤモヤした気持ちで観ていました。
ただラストに一気に評価が爆上がり。
広瀬すずも素晴らしかったんですけど、とにかく本作は松坂桃李と横浜流星が凄まじかった。子役の白鳥玉季もすでに名女優の貫禄です。

“自分の居場所”

誰にでも与えられているとは思えない…本作を観ると、強くそう感じさせられます。
広瀬すず演じる更紗と松坂桃李演じる文はある意味自分の居場所を持ち合わせていません。

それは本作の舞台となった15年前の出来事。
10歳の少女が19歳の大学生に誘拐されたという事件。世間はそのニュースに脅かされ、当時大学生だった佐伯文は完全に誘拐犯として見られてしまいます。

正直これが現実に起きたとしたら、私もこの映画で描かれるその他大勢と同様に文を犯罪者としてしか見ることができないと思います。
それぐらい当事者同士の出来事っていうのは当人たちにしかわからない…ということが現代と15年前の回想シーンを交互に映し出されることで身をもって体験する感覚を味わえます。
同情に近い感情で彼らを見守っていくわけですが、完全に理解できるかというとわかりません。
ただし、更紗のパーソナリティや文のパーソナリティを映画を通して知ることで、彼らはそれぞれが大きな問題を抱えていることがわかります。

現代でもついに2人は邂逅するわけですが、そこで現在の2人の境遇があるからこそ大きな出来事に発展していくんですね。
更紗は大人になっても“あの時”誘拐された少女のレッテルを貼られ続けています。
不必要な親切、というかお節介のようなものを日々浴び続ける彼女。それを肌で感じる演出が続くため、観ているこちらとしては胸が痛々しくなります。
今は横浜流星演じる亮という恋人と同棲しているのですが、この2人の関係もある意味“鎖”で繋がれているようなもの。
一見愛し合っているようですが、2人の間にはちょっとした溝があるように見えます。

こんな3人の主要人物の積み上げているドラマが実に深く、150分の上映時間はしっかりと感じるのですが、それでも見入ってしまうのは類い稀なる撮影によるものなのかもしれません。

広瀬すず、松坂桃李、横浜流星と主要キャストは軒並み素晴らしい演技を見せてくれ、更紗の幼少期を演じた白鳥玉季は『ステップ』の時よりもさらに進化してすでに大女優の貫禄すら感じたほどです。

〈キャスト〉
家内更紗(広瀬すず)
佐伯文(松坂桃李)
中瀬亮(横浜流星)
谷あゆみ(多部未華子)
安西佳菜子(趣里)
湯村(三浦貴大)
家内更紗(幼少期)(白鳥玉季)
安西梨花(増田光桜)
佐伯音葉(内田也哉子)
阿方(柄本明)

※2022年新作映画75本目
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