ぴんゆか

流浪の月のぴんゆかのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
2.9
ポスターの広瀬すずが広瀬アリスすぎる。
全然似てなかったのに遺伝子恐るべし。

ずっと見たいと思っていてやっと見た。
ロリコンと少女、恋愛、家族という安直な言葉達では括りきれないものがあって考えさせられた。

相当過酷な減量を経て撮影に挑んだという松坂桃李は本当に別人で、カットによっては佐藤健に見えるほど。いつもの柔和な雰囲気を一ミリ足りとも感じさせず、シャープすぎる輪郭と真っ直ぐで犯罪者のそれのようなくり出た目つきが見る者の背筋を寒くさせる。
「空白」の時は厳しさもあまり知らず無気力に生きてきたような青年そのものだったので、この緩急は見事。

対する広瀬すずには同監督の「怒り」の時に、チープ恋愛もの常連の清純系若手とは確実な一線を画する体当たり演技に驚いたのだが、今回も笑顔の中に深い絶望と無邪気さを共存させる絶妙な演技が光っていた。なにより、あの清純な女子高生であった彼女が哀愁と生活感漂うパート主婦をしていることが至極自然であることにまた驚き、時の流れの速さも感じた。

また他の方の指摘にもあるように、横浜流星のDV男が凄みありすぎてさながら本物。こちらもキラキラ青春俳優だと思っていたので、かなり作り込んだきたことを実感。

肝心の内容は、やはり小説が原作なのでやや説明不足というか小説を読んだ方が楽しめるのかなという点はある。
ただ先日も家出少年を家に上げたとして大学生が逮捕され、逮捕されるとは思わなかったといっていた事件にもあったように、この"問題"はあまりことの発端に注視されることもなく、"ロリコン"でいつも済まされてきたテーマで、それをこうして映画として見ることに意味があったように思う。

文が安易に家に連れて行ったのは断固として大人の正しい行動ではない。
だが、貧困や苦難に陥る子どもたちが行き場もなく彷徨いつくのがそういった他人のもとであるのも不思議では無いと思う。
警察や学校に相談してもきっとまずは元の家に返されてそれで終わりだ。この果てしない地獄から抜け出した先が"犯罪者"のもとであったら、彼らを我々はただ糾弾するだけでいいのだろうか。

昨今LGBTなど、多様な個々、愛の形、生き方を許容し共存していく方向に動いている。
これは人間の進化における新たな一歩ともいえるような素晴らしい躍進ではあると思うが一方で、
では幼児性愛や死体性愛など異常とされる、犯罪のラインに足を踏み入れてしまう性癖を持つ人間たちはどうするべきなのだろうかとも常々思っていた。
社会に生きるにあたって他者への思いやり、倫理観を念頭においてこれらは理性で制御すべきなのは勿論ごもっともなのだが。
しかし彼らはどのようにして"普通"に生きていくべきなのか。

この作品はそれらを踏まえた一つの解であると思う。
出会い方に問題しかなく、ストックホルム症候群の影響ではないといえば嘘になりうるにせよ、お互いがお互いを傷つけることなく幸せに生きていけるのであれば成人として"被害者"と"加害者"という世間のレッテルを越えて新たに2人で暮らしていくこと、
性愛や肉欲がベースとなることが必ずしもスタンダードではない、お互いを想うことだけでプラトニックに共に生き続けることも有りなのではないか、と。

ただ今回のような場合は大人側が子ども側にあくまで何も手出しをしていない、親子のような関係を築いていた場合のみ安堵できるものであり、当人たちにしかわからない、第三者からは判断できうるものでないのも極めて困難である。

社会における子ども、弱者の扱いへの問題提起として、この先も忘れないでおきたいと思う。
ぴんゆか

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