みち

流浪の月のみちのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.4
襲いかかってくるような孤独。最後の希望みたいに伸ばした手。握り返した手。

濃密で、身を削られる映画でした。見せ場で音響が畳み掛けてくるけれど品の良さは損なわれない。すっかり役者に惹き込まれている。

原作は更紗と文の言葉が少しずつ染み通っていくようだったけれど、映像で見ると感情が前触れもなく揺さぶれて。小説は坂、映画は階段。握り返した文が力強く言った言葉に泣いた。

広瀬すず、凄まじい演技。
大丈夫?と訊かれて、大丈夫ですよ、と返した「笑顔」とか。繰り返されるたび意味も響きも変わっていく「亮くん?」とか。鬼気迫る表情で文の姿を追いかけて、彼が幸せである(であろう)ことにほっとした瞬間とか。

文の隣のベランダで更紗がシルエットで語りかける場面が良かったです。どうやったらあんなに上手く影になるんだ。

子役の白鳥玉季にも驚いた。目だけですでにいい女優なのに台詞が抜群に上手い。松坂桃李と共演なんてもはや演技合戦。互いに読んでいる本が入れ替わってしまうところ、好きでした。

原作を読んだときも映画でも、「そんな簡単に他人の家行く?」というところが初めは引っかかるんだけど、あとから彼女の境遇を知って、あとから二人の時間の尊さを知って、何も知らずに他者のことを言いたい放題言っていたのは他でもない自分自身だと気付かされる。

嫌な存在だけど実家の雰囲気とかからも何かしらの抑圧や苦しみを背負って生きてきたんだろうと想像させられる中瀬亮も申し分なく良い演技だったし、脇を固める人たちがさらりと存在感を発揮していて(趣里、柄本明、多部未華子、北山雅康……ほか)、恵まれた映像化だった。

上映後はライティングディレクター中村さんのトークショー。ロケハンに苦労したり、屋内の照明にこだわった話。監督のとある意図があったという橋と濁流、「ここでタイトル出てきたらすごく良いかも」と思っていたカットでした。
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