Automne

流浪の月のAutomneのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.3
"めっちゃ邦画"だけど故に邦画の良いところがたくさん出ている作品。
俳優陣も広瀬すずはもちろんのこと(李相日作品での扱いの不憫さ徹底してて辛い)、松坂桃李の存在感と「陰」の雰囲気が素晴らしい。横浜流星の「陽」の感じと"優等生,上京,都会大企業,実家農家長男"の役満感と、陽キャコミュ力高めだけどコンプレックス強め男のズレてる加減がめちゃくちゃに上手くて良かった。子役も全員どこから連れてきたのってくらい、それぞれの登場人物の過去と地続きにつながっているような存在感と雰囲気を纏っていて素敵。

文と更紗のすれ違う結ばれない愛の物語と解釈したけれど、受け身で環境の悪さから内向的に生きてしまうひとには世の中冷たいし生きるの辛いよなあって思ってしまう。Googleでも流浪の月でスペース空けて「気持ち悪い」が検索候補に上がってて悲しい。たぶん彼らの関係性は理解されないし、出会い方が絶望的に悪かったし、世の中的には間違っているということ、ふたりの中にだけ真実があるということ。
瞳の奥にひとりの人生があり、それを垣間見たような気がして感動した。"誰も否定せずただ受動的に生きること"は、逆に"誰かの多くの否定を生み誰かの多くの攻撃を生む"。ただのパーソナルな関係性の話でなくて、根本には生まれや育ちや環境、見てきた経験から生まれてしまったこのような愛の形。

でももっとメタな視点で行くと、映画が彼らに寄り添っているからそう思えるだけであって、本当は「いろいろあったしいろいろやってた」可能性はもちろんあるだろうし、昨今のジャニーズ事務所問題でも分かるように"tamed"されていた可能性も否めない(それを提示すると物語が崩壊するが)。そう考えると題材選びとしては攻めすぎなくらいだし、時代の流れとは逆行しているような気がする。

U-NEXTの未公開シーンも見たけれど編集マンめちゃくちゃ良い仕事してるなと思う。シンプルに映像制作の勉強になりましたありがとうございます。
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