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流浪の月のmitzのレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
4.0
凪良ゆう原作、2020年本屋大賞受賞作品。家出少女(更紗)を保護した青年(文)が誘拐罪として捕まり、その15年後に邂逅する2人の物語。李相日監督作品らしい不確定な善悪の線引きと純文学的で静謐な描写が美しい作品です。
「事実」と「真実」の乖離。そして事件から15年が経過しても尚、ネット上に残された痕跡はデジタルタトゥーとなり記憶の風化を許さない現代社会。2人の間にある純粋な信頼関係とは異なる「被害者と加害者」としての世間の認知。ロリコン誘拐犯と洗脳された少女としての偏見に晒され、抑圧された息苦しい日々の中で身を寄せ合う2人を松坂桃李と広瀬すずが見事に演じています。
また過度な説明のない演出により、小児性愛者としての文の本心。また「ストックホルム症候群」と思しき更紗の言動など「真実」そのものを観る側の届きそうで届かない絶妙な領域に設定しています。終盤の文が(少女期の)更紗の口についたケチャップを拭き取るシーンに象徴されるように、純粋の中に潜む一縷の「危うさ」が物語に奥行きを与えています。
フォーマット化された恋愛映画にはない、共依存にも似た人と人との結び付きが繊細に表現されたとても上質な日本映画です。

また今年二度目の本屋大賞に選ばれた「汝、星の如く」の映画化も楽しみです。
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