シシオリシンシ

ARGYLLE/アーガイルのシシオリシンシのレビュー・感想・評価

ARGYLLE/アーガイル(2024年製作の映画)
4.5
「めっちゃおもろ!!」って上映後に言いたくなるスパイアクション映画。いや、どんでん返しが連続しまくるツイストアクションムービーと私は評したい。

予告編ではスパイものというのは分かるけど地味そうな印象しか感じられないなあと思っていたが、それもそのはず。この映画が実は二転三転どころか九転十転くらいするレベルのどんでん返し映画であることを隠すために序盤の1割くらいの映像しか使っていないのだ。

大ヒットスパイ小説「アーガイル」の作家エリーが本物の悪のスパイに狙われて、冴えない風貌のオッサンであるエイタンが実は悪と敵対する凄腕スパイで、エリーはエイタンの戦う姿に自身の小説の主人公で最強のスパイのアーガイルを見てしまう。
という作家の虚構と現実が織り混ざった『キング・オブ・コメディ』や『ジョーカー』のようなジャンルの映画……と思わせておいて、期待も予想も裏切りまくる怒涛のどんでん返しの連鎖にブン回されるツイストしまくったトンデモ映画なのだ。

主演はクレジット上ではヘンリー・カヴィルだが、彼はあくまでもエリーの空想の存在=アーガイルであり、この映画の主人公ではない。
主役には冴えないオッサン風の現実のスパイ=エイタン(サム・ロックウェル)が相応しく、スパイ小説作家のエリー(ブライス・ダラス・ハワード)がヒロインで物語が進行していくが……ここでも凄いタイミングで関係性に捻りを効かせてくるので実に油断ならないストーリーテリングなのだ。

役者陣の演技は見事の一言。
空想上の最強スパイ・アーガイル役のヘンリー・カヴィルはDCEUでスーパーマンを演じたこともあって逆三角形なプロポーションと精悍でどこか人間離れしたハンサムさが空想の存在であることに説得力を持たせるのに十分である。

実質主人公の一人、エイタン役のサム・ロックウェルも、うだつの上がらないオッサンな佇まいなのにいざ戦闘となったらキレキレのアクションで無双しまくるギャップに萌えること間違いなし。カッコいいアクションの後に腰をいわしていまいちカッコつかないところも魅力的。
『スリービルボード』や『ジョジョラビット』でも思ったが、本当に実在感のある味わい深い演技が出来る良い役者だ。

ヒロインのエリー役のブライス・ダラス・ハワードも素晴らしいのだが、彼女の美点の大半は多大なネタバレを含むので深くは語れない。
是非大スクリーンで彼女の大・大・大活躍を観てもらいたい。

他にもマシュー・ヴォーン監督の過去作に出ていたあの人やこの人が思わぬキャラで出ていたりするので監督のフォロワーや特に『キングスマン』シリーズのファンは期待して観てほしい。

そしてそして!
本作の一番アツい見所は、何をおいてもアクションシーンの凄さに尽きる!
『キックアス』や『キングスマン』でお馴染みの洋楽に合わせた1VS多数の一騎当千の無双シーンは健在で、今作では爽快感や音ハメの心地よさがさらに磨きがかかっている。ゴキゲンな音楽にノッて最高にカッコいいケレン味200%アクションに振り回されるのは実に気持ちいい!
展開は伏せるが、クライマックスのカラフルでビビッドな発煙筒の中で社交ダンスの振り付けが融合した奇天烈なアクションや、フィギュアスケート+スピードスケートを合体したような今までに類を見ない前代未聞のアクションが凄すぎて、このシーンでもう心臓を撃ち抜かれてしまった。マシュー・ヴォーンの中では『キングスマン』の教会での無双シーンが最高点だったが、この2つのアクションはそれに匹敵するレベルで度肝を抜かれた素晴らしい大立ち回りだった。しかもこの2つのアクションともに最序盤に張られた伏線を巧みに回収しているので、ストーリーとアクションが有機的に繋がったハイレベルな作劇をさりげなく入れているところも最高だ。

観賞後感も実に爽やかで、帰り道はノリノリな調子でゴキゲンな余韻を味わうことができた。
思っていた映画とは違ったが、ジャンルも展開も登場人物もアクションも全て良い方向に騙してくれたので、諸手を上げて「アッパレ!」と拍手を送りたい。
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