せいか

ミラベルと魔法だらけの家のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

ミラベルと魔法だらけの家(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

11/17、テレビの金曜ロードショーのものを視聴。吹替版。
原題は「encanto」。スペイン語で、魅力や魔法といった意味合いの言葉で、その2つがまさしく溶け合っている本作をそのものずばり言い表したもの。
時代設定は不明だが、舞台はコロンビア。主人公の祖父母の村が何やら迫害に遭っているシーン画あるのがヒントなのだろうけれど、割とそれでも具体的にどのへんか考えるのは難しい曖昧さを残している。このため、なんとなく世界全体が物語の世界、ファンタジーさが際立つ。他のディズニーアニメの空気感になってるというか。主人公がああいうメガネしてるのでかなり現代に近いのだろうけれど。

本作では、祖母の世代から突如魔法の力を手に入れた一家の物語で(物語はその50年後のはなし)、魔法の家に住み、血筋の者たちは5歳を迎えるときに魔法の能力を授けられるという慣習ができていた。だが主人公だけは何も授けられないまま15歳を迎え、新たに5歳を迎えた少年が無事に魔法を授けられてから家の様子は変わり始めて……みたいな話。

家族という世界と社会という世界の二重の圧を扱った話で、しがらみのうちにできる呪いというものを描いている。
家族にしろ社会にしろその中で有能とされるものを持っていても、無能と言われるような状態でも、どちらの立場にもそのコミュニティーのあり方次第では重荷を背負うことになる。能力があって求められればそれに応えられる自分を演出しなければならず、能力がなければ、それはこれができる人に任せればいいと言われて同情と共に脇の方へと排斥される。故に有能者は有能者としての自分を、無能者は有能者になれる自分を果てしなく追い求めることになる。例えそれを自分は望んでいなくても、それこそが自分のあるべき姿だと思い込んで、果てしない努力に足掻くことになるのだ。
そういったものを家族と社会の二面から描いてる点で本作は面白くはあった。世の中の能力主義というか、働くことに対する歪みもそうだけれど、これができなければならないという抑圧は凄まじいものだなあとは日々感じていることなので。実際、そういうものが疲弊を招いていると思うし。
家族の中に無能者がいるというのも、言いかえれば、家族の期待に応えられなかった存在や、能力主義社会から見た生産能力のない人物を抱えた一家とも言えるもので、本作はそこがかなりマイルドに表現されていた。

本作を通して、自分が望む自分になろうとか、家族を見つめ直そうとか、要は50年かけて一家が作り上げてしまった呪いを解いていく話だと言える。それが家が一度崩れた後、建て直すことにも表れている。そしてまた、起点となる祖母が家を守りたいあまりに家族に与えてしまっていたプレッシャーを認め、その重荷から開放されることもそれと重なっている。

繰り返すようにそのテーマ自体はどちらかというと好みなのだけれど、でもなんか最後まで観ると突き抜けて「面白かった」とは言えない感じだった。
結局彼らは愉快な家を村人たちと共に建て直し(これによって能力のために彼らに敬われてきたような不平等関係ではないことが明らかにもなる)、そしてまた心機一転で魔法の家は元に戻り、しかも作中で魔法の力を失っていた一族も元通りに使えるようになる。要はまたチャンスを与えるから、次からは自分が望む形でそのエンカント(=魅力、魔法)を使いなさい、養いなさいということなんだろうし、社会との折り合いも付け直しなさいということなんだろうけれど(魅力と言ってしまっているからにはそれを剥奪したまま物語は終えられないし)、確かにハッピーエンドでもあるんだけど、なんかしこりがあるというか。結局、村と家という閉じた世界の中でスクラップアンドビルドをする話なので、すごくきれいな楽園なのに閉塞感があるというか。ここで主人公が外の世界へ!ってやる話ではないのも分かるんだけれど(それこそあくまでこの場合は一種の現実逃避というか、問題は残したままお先真っ暗エンドだし、メタなこといえばディズニーがこの手の長編アニメでは家族を否定することはおよそなさそうだし)。このへんは私が家族というものがめっっっちゃ嫌というのが影響した感想だろうなとも思うけれど。

たぶん、これから先もまた彼らの家は同じことを繰り返すことになるかもしれないし、社会もそうなるかもしれないという余韻は残しつつ、現在は持ち直しましたというものなのだろう。軋轢も開放もどちらかに完全に偏ったままではいられないものなのだ。

でもやっぱりなんだかすごく閉じた息苦しさは最後まで感じてしまう作品だった。楽しいし、観ていてテンポもいいし、テーマもいい。内容もまあ別にそこまで変な感じが目立つわけでもない。それなのになんだか苦しい。なんなんだこれは。
個人的にディズニーの長編アニメがおよそ苦手な傾向にあるのだけれど、そういうのに感じる空気感を結局共有してるからなんだろうなとも思うけれど。
家族それぞれにもっと触れて良かったと思う。主人公(と家族)の苦しみがまあこれでええやろレベルで体よくまとめて終わりって感じだった。(この一族の外から来たがゆえに凡人ポジションを強いられている)父親が主人公に対して、目立つな、普通でいろという圧をかけてるその呪いとかも濁されたままというか。たぶん主人公が他の人達と違って分かりやすく祝福を受けられなかったの、彼女にこの家族が持つそういう歪みが(反対に、私の家族は能力を得て当然という傲慢さもここには含まれる)一種の願望として叶ったからだと思うのだけれど、そこが濁されたままの気持ち悪さというか。
まとめれば、中途半端という言葉がぴったりだと思う。テーマもしっかり刺さるところまではできてない感じ。感想が書きにくい作品。

あと、ラスト、この一家のある女性と結婚しようとしてる男が、いよいよってときになって振られても尚その恋心を振り払えずにいたら、同じその家の別の女性でずっとその男が好きだったキャラクターが告白した途端に容易に乗り換えたの、なんかすごい皮肉を感じたのだけれども。そこはどうなるかみたいな先延ばしのままエンディングしたらまとまりが悪いからテンポよくしたのだろうけれど、ここにも閉塞感を感じるというか、何がしたいのか分からなくなるというか。
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