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ミラベルと魔法だらけの家のYAEPINのレビュー・感想・評価

ミラベルと魔法だらけの家(2021年製作の映画)
3.1
ここまでピンと来なかったディズニー・アニメーションは初めてかもしれない。

3DCGここに極まれりといった鮮やかな美術と、リン=マニュエル・ミランダの音楽は間違いなく素晴らしい。

ビビッドなピンクを基調としたカラーリングで、南米特有のカラフルな明るさが画面を覆う。

キャラクターの顔立ちもみな華やかで濃いめだが、何より目の表情演技が繊細で驚いた。喜怒哀楽の間を縫う、慈愛や緊張、自己嫌悪と言った曖昧な感情が克明に描かれており、キャラクターの目を見ているだけでこちらの感情も動かされた。

音楽については、リン=マニュエル・ミランダによる高いクオリティが担保されていたが、耳残りするインパクトとミュージカル的快感は薄い気がした。
いい曲だったのに、正直1曲も覚えていない…。
「普通だったらもっとグレていいよ…」と思うような状況でも、登場人物たちはどこかポップで楽しげに熱唱するので、切迫感が伝わりづらい。その人物がミュージカルパートとして歌い上げるほどの感情の昂りがあまり見えなかった。
主人公の美人な姉、イザベラのパートは、彼女の持つ意外性が明らかになっていて良かった。

ストーリーに関しては、かなり拍子抜けしてしまった。
まずこの主人公は、自分の暮らすコミュニティ外の環境にほとんど踏み出さない。
最近ディズニー・アニメーション映画を観ていなかったので分からないが、おそらくディズニーの歴史の中ではかなり稀有な存在なのではないだろうか。
マドリガル一家のコミュニティが広大であることは理由の一つだろうが、ミラベルの行動範囲には常に彼女を支え、親しんでいる人物しかいない。
これまでどんな主人公でも、少なからず自分の家なり村なりから離れて物語を動かしていたように思う(白雪姫やオーロラ姫ですら、家を離れて森をさまよう)。

魔法の力を授かったマドリガル一家は、それを使ってコミュニティの生活を運営する、いわば地域の有力者だ。
主人公のミラベルは、その血筋で唯一能力を持たないというコンプレックスを抱えている。
家族の能力がコミュニティのための「生産性」に還元されてしまう中で、彼女は逸脱した存在として家族を癒す役割を発揮し、魔法の力を救うために奔走する。

しかし、結局なぜマドリガル家が能力者に選ばれたのかが不明瞭なため、女系家族の長である祖母が寛大になったくらいで、能力者の責務自体は解体されない。
家族を支えるべき、地域を支えるべき、という価値観からは一歩も離脱しないのである。
また時期が経てば、周囲から期待され頼られ、疲弊していく未来が繰り返されるばかりだろう。
才能も人望もあって優れた人物でも、たまには疲れちゃうよね、という「持てる者」のお悩みに感じてしまい、これに共感できる人はいかほどかと疑念が生まれた。

主人公は大した冒険をしていないうえに、根本的な問題は何も解決していない、消化不良の物語だと思った。
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