幽斎

デモニックの幽斎のレビュー・感想・評価

デモニック(2021年製作の映画)
3.6
未体験ゾーンの映画たち2022。私は京都住まいなので鑑賞の度に新快速で大阪へ遠征する。既に「ザ・ビーチ」「アクセル・フォール」「TUBE チューブ 死の脱出」「クリフハンガー/フォールアウト」「ポスト・モーテム 遺体写真家トーマス」「マザーズ」レビュー済。コレ系の作品は劇場で観た方が面白い。シネリーブル梅田で鑑賞。

未体験ゾーンの映画たち2022の中で最も前人気の高い作品。それはNeill Blomkamp監督が久し振りに長編映画に帰って来たから。彼のデビュー作「第9地区」は一歩間違うとお下劣な猛毒を撒き散らす作品乍ら、世相を反映した見事な社会風刺と、奇抜な映像センスがハリウッドの映画人にも高く評価され、デビュー作でアカデミー作品賞ノミネートと言う快挙を成し遂げた。監督は南アフリカ共和国ヨハネスブルク出身。

続く「エリジウム」はJodie Foster、Matt Damon出演のSF超大作だが、ソニー・ピクチャーズが監督に自由に作らせた結果、北米ではR指定を喰らい興行的には惨敗。テーマは南アフリカに残る人種差別、格差社会を地上と宇宙、ディストピアとユートピアに2極化した近未来と言う、誠にプロットは宜しいのだが、監督はバジェット作品と相性が悪い事を露呈した結果のみが残った。

続く「チャッピー」もソニー・ピクチャーズ製作、監督の短編「Tetra Vaal」の長編化だが、日本の士郎正宗の大ファンで彼のデザインをインスパイアしたと意気揚々だったが、ソニーはレイティングをPG12まで下げる為に監督の同意なしに編集して公開。此方も北米だけでは採算が獲れなかった。

監督に「エイリアン5」の企画が浮上する。Ridley Scott監督は彼の才能を高く評価し自由に執筆させたが、仮原稿では「3」と「4」が無かった事に、R指定が確実のスクリプトに、当時の20世紀フッォクスが難色を示し、Scott監督は書き直しを指示したが、結局プロジェクトは雲散霧消に。「ロボコップ」の企画も有ったが、文字通りの企画倒れに。その後の監督は完全に引き籠りに(笑)。

結果論だが監督はハリウッドと相性が悪いとしか言いようが無い。自身で「Oats Studios」を立ち上げ、YouTubeに作品を上げてる。アカデミー作品賞ノミネート監督がYouTubeで食い繋ぐと言うのは、何と形容して良いか分らないが、未だにハリウッドでは彼の才能に対する評価はアゲインストではない。これを見ればこのまま才能が埋もれて行くのは、とても忍びない。
www.youtube.com/watch?v=Q1_HfhtB5eo&ab

新作の依頼がカナダのスタジオから届く、と言ってもAGC Studiosはインディーズの会社。日本で一般劇場公開に至らず、未体験ゾーンの映画たちに「回された」時点で、クオリティはお察し下さいレベルだが、今でもカルト的人気を誇る監督に依れば「ブレア・ウィッチ・プロジェクトやパラノーマル・アクティビティの様な超低予算で成功したホラーに挑戦した」そうだが、令和の世にブレアを目指した時点で古いのは明白だが・・・。

【ネタバレ】うーん、一応念の為に貼っときます。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

さて、ご覧に成ってどんな感想でしょう?(笑)。「人の意識をヴァーチャルで再現、その空間に再現した別人格を送り込む」つまりサイバーパンクを現代に蘇らせた。とでも言いましょうか。監督のインタビューの続きで「テクノロジーに連結した人間の心、これは常に誕生してくるテーマ」。SF映画の基本的な見方として、インテリジェンスに溢れたプロットは、潜在意識から直感的な感覚が生まれ、映画と云う表現方法から遠ざかるのがセオリー。偉大なSF作家William Gibsonの小説を多く読んだ、私の概念と一致する。

VFXは予算が乏しい中で「XR/自由視点」Volumetric Captureと呼ばれる最新テクノロジーを映画で採用。Motion captureは皆さんご存じと思いますが、例えば動いてるNicole Kidmanの皺を消す(ゴメンねニコール(笑)、CG-morphingの様に、役者を若返らす事も可能、お金が有れば。ボリューメトリックキャプチャは被写体を丸ごと3D化して再現。バーチャルリアリティの新たな表現を可能にするテクノロジーを逸早く取り入れた。

本作は皆さんが思ってる以上に北米で酷評されてる。監督史上最低のオーディエンスに私は「其処まで扱き下ろすかな?」と疑問符を付けたいが、演出が回り諄いのは今に始まった話でも無い。冒頭は予想を超えた「火力」で思わず「ちょ、待てよ!」と言いたく成るが、思考の範疇を超えた悲劇は此方の心理を軽くキャリーオーバー。ボリューメトリックキャプチャを使った描写に移行するが、SF映画の昏睡状態の仮想現実とは、明らかに一線を画す展開。「マトリックス」を今風にアレンジすると、こう成るかな?と。

本作は突然のレーンチェンジを敢行。ヴァーチャル空間に唐突に「悪魔」が登場。確かに原題「Demonic」は「Dēmon」直訳すると悪魔では無く鬼神だが、始めは「なんだ、死霊館でも始まるのか」と気楽に構えたが「悪魔+ヴァーチャル空間」と言われても此方の脳内が追い付かず、スリラーの考察をリタイアしたが、悪魔と言うプロットなら何を描いても良い、ヴァーチャル空間も何を描いても許される、不条理な掛け算なら、それは映画の枠を超えた単なる無法地帯。

ブッ飛んだジャンルレスと言えば私の2021年ベスト1「マリグナント 狂暴な悪夢」。本作でもラストはONE by ONEの対決も有るが、ハリウッドではこの手のジャンルをLinked thrillerと言いますが、マリグナントがラスト1秒で全てを引っ繰り返す(気付いて無い方も大勢居るだろう)秀逸なスリラー。対して本作は詰めが甘く新機軸の羅列で場当たり的な演出も目立つ。私は余り他人さんを地頭が良いなと思う事は無いが、James Wan監督、ヤッパリ貴方は凄い。それでも人真似をしないBlomkamp監督の才能も大いに称えたい。

監督らしいデジタル世代のSFオカルト・スリラー。不気味の谷の演出は流石だった。
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