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衝動のkili00のネタバレレビュー・内容・結末

衝動(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

いろいろ深く考えるテーマで、2回観てからしばらくたって、また観たくなっている。117分はあっという間だった。

観ててこころが痛むシーンも何度かあったけれど、全体を通して映像がきれいで観やすくて、観終わった後いい余韻が残った。
駅までの帰り道、感想を言い合う時間も、話す内容自体は明るいテーマじゃなかったけど、楽しい時間だった。

ハチとアイが自分とは関係のない別世界のひとじゃなく、他人事じゃない感じあるな、、

吾妻ひでおさんの「失踪日記」を読んだ影響もあるけど、ハチやアイのように(そしてもしかすると自分も)人間は何がきっかけで闇堕ちするか分からないなと思った…。
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以下からはかなり長文になります💦

//感想と考察をまとまらないメモとして
記録保存…//
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2回目の感想・考察

…追記と修正
2回目、前の方の席にしました、

・ホテルの観きれなかった文字
・ハチとアイの「衝動」て何なんだろう
・ラスト前のラストの捉え方

が気になってて、自分なりの解釈を何となく見つけられた、
びっくりなのは、ラスト前のラストの救われない感が、2回目ではかなり印象が変わったこと。

…観きれなかった文字
ホテルで、ハチとアイの会話シーンがボールペン?の文字に変わったので、分からなかったのが今回観えて、アイの語られてなかった背景がそこで深まった。

…ハチとアイの「衝動」
ハチは、自身とひとを殺める衝動、どこか遠くへ行きたい衝動、だったのか…?と、
アイは、父親を殺めたい衝動、ラスト声を出したい衝動、だったんだろうか…
3回目もし観る機会あれば、感想変わるかも、、
【追記の追記】
細かくこの事象や結果に対しての「衝動」だったと解釈すると、よりモヤモヤしてきた。
そうせざるを得なかった、どうしようもなくそうしたかった、何か訳も分からなく身体がこころが動いた、のような、外発的に内発的に突き動かされる力が「衝動」のようなもの、大きな流れのなかで説明的に解釈できないもの、と捉えたほうが個人的には落ち着いた。

…ラスト前のラスト(ハチ最後のシーン)の捉え方
2回目観ると、ちょっと落ち着いてるせいか、音楽がむちゃ耳に入ってきた、
ポップな、躍動感ある明るめな楽曲「衝動」で。
1回目の記憶では、救われない希望のないシーンの印象だったので、音を聴いてまずあれ?と思って。

ハチのポエトリーリーディングのような台詞回しの内容を落ち着いて聞くと、これからのアイと生きる人生の希望に溢れてた。
もちろん、河原前にひとを殺めてるけど、それはハチ自身のテンション高いからか、ちょっと他人事感があり(そこは倫理的に、一緒にいた女性のこと、アイのことも考え全然だめだけど)
救われない、どうしようもなく暗い気持ちで観てたシーンが、ちょっと未来の光が差してる印象に変わった。

…あと、新しく気づいたこと
なんで全速力で逃げたのか、場所が河原だったのか、記憶抜けてたけど、地元の懐かしい大きな川に似た場所、それとどこか遠くへずっと行きたかったからなのかなと…
ちなみにハチは、脚が早い自慢をアイにしてた、それに付いてってたアイのフォームのきれいさ、、アイもかなり早い。

ハチがネカフェを最後出るとき、エミカとのやり取りで、揉まれて養われた社会性とハチの成長を見られたこと。
何を考えてるのか分からなかった、動物みたいなハチが、ちょっと人間らしい人間になってた。

階段でグリコとグリコのキャラメル?
楽しいとき、悲しいとき、いつだってメロンソーダが側にあるんだなー
ハチの精神安定剤みたいな感じかも?

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1回目の感想・考察

手帳の文字に気を取られる瞬間が何度かあったので、席を替えてもう1回観てこようと思います…

…登場人物の背景
本編には出てこないキャラクター設定を、制作過程においてかなり緻密につくり上げていたと聞いた。

ハチとアイと比較すると、他の登場人物の背景の描写や表す台詞が少ないため、詳しいところは想像するしかない。
観る側として、1人1人キャストの背景を描くことをむしろ抑えていたように感じた、
あくまで、渋谷でいまをいきるハチとアイの若者にフォーカスして、浮かび上がらせるため…?
複雑な相関図や背景、名称が絡むと覚え切れないほうなので、動機や生き方の裏づけに物足りなさを感じたのも正直なところだけど、個人的には2人に特にフォーカスした描写でよかったと思った、

…社会が生み出す悲しみの連鎖と新たな犯罪、犯罪を起こしたひとの家族への、差別、根拠のない偏見
傷ついている、ケアが必要な当事者たちなのに、さらにえぐり、追い込む周りの目や差別、偏見が負のループを生み出すさま。

犯罪心理学が専門の先生が言っておられたのは、罪を犯し償って更生し、出所してがんばろうとしても、周囲からの差別や偏見が付きまとい、投げやりになって、まだ刑務所のほうがマシだと考え、新たな罪を犯して刑務所に戻ってしまうひとがいるので、温かな人間関係によって更生した方は社会で成長していくんだ、という話。
観ながら先生の話を思い出していた。

ハチは、福島で生きていく場所を失い渋谷に逃げてきた。
自分の存在を消せる街、兄の存在を嫌でも感じる街に、
そして、一緒に生きたいと思うひとに出会った、けど、ラスト、罪を犯してしまう。
誤解を招くような言い方かもしれないけど、見方を変えると、やっぱりそうだよね、犯罪者の家族なんだからなんかどこかおかしいのかもね、という周囲の期待?を裏切らない、望む通りの結果みたいなのを、その通り自ら実現したとも言えるかも、、

罪を犯したことは罰を受けなければいけないけど、犯された罪に無自覚にも加担したのは、差別や偏見の目で見てきた周りのひと達だったのでは…??

…「青春映画」
自分のなかで、そもそも青春映画って、何だったっけの疑問から、定義らしきものを調べた。

wikiによると、【若者特有の夢や挫折、友情や初恋、冒険と旅立ちを描いた映画のジャンル】だそう。
自分の持ってるイメージでは、底抜けに楽しく、甘くて切ない、その時代、時代のいま、社会を映すもの。
あるいは、うまくいかない現実に鬱々ともがき、葛藤しながら、周囲のひととぶつかり、見守られながら、ひととして成長していく。
みたいなところを「青春」だと感じていて。

調べたところの、若者特有の夢や挫折、友情や初恋、冒険と旅立ち、などはまさに「THE 青春映画」だと思った。
描かれかたは随分と過激でアンダーグラウンドだけど…
若者が大人にいいように搾取される社会的構図、生きづらさ、「何者なのか」ラベルを求められる社会、コロナの影響とかとか、そういうのは苦い「青春」なのかな。

ハチとアイの心情や行動を「青春」を通して考えると、ファミレスのシーンも自転車2人乗りも、あめとおまけをあげるのも、ドラッグ持って逃避行しようとするのも、めちゃくちゃ河川敷まで走るのも、青春がぎゅっと詰まってた。
観る側の過ごした、過ごしている、過ごそうとしている「青春」の捉え方によっても、「青春映画」かどうかは感じかたが分かれるような気がした。

…コロナの描きかた
マスクしてるひと、してないひと、マスクしてないけど消毒に躍起になってるひと、生きることも死ぬこともどうでも良く?マスクしてないひと、マスクしてるけど顎マスクのひと、など、いろいろな描きかたが出てくる。

さすがに、コロナがメインテーマではないから、出演者全員常マスクというわけにはいかない、ただどうしてもエキストラの方や通行人はマスクを外すことは厳しいコロナの状況がある。
どうコロナを扱うかは、コロナ禍においてのあらゆる創作物にかかわってくることなんじゃないかな?と思う。

コロナは社会システムだけじゃなく、人間関係も壊したりすることがあると思う。
コロナの描きかたを通して、監督より、コロナ禍における社会、ひととの関係性のあり方について、これでいいんですか?と問いかけられてるような気が勝手にした…

…ホテルのシーン
大量の血とか死体とかが苦手なので、比べる対象は違うと思うけど、耐えれないとかは感じなかった。
地獄絵のようだとは思ったけれど、、
エグい拷問、「儀式」のようなものというか…
もしアイに出会う前だったら、ハチは死を選んでいたかも?しれない、けど、アイがいるから耐えれたのかなー…

ショウヤに対するユウコの底知れない依存心が1番恐ろしかった、ショウヤのためにそこまでするの⁇みたいな…
ショウヤがいないと生きれないんだったら、そうなるか、、
シーン全体がちょっと長く感じてしまった、もう少し短くても良いかもと思った、

…猫のエピソード
これは…もう本当こころが痛んだ、、
動物の虐待とか、日常頻繁に起こる事件だと知っているし、動物への攻撃がエスカレートしてひとに…というのも聞いたことある。
けど、このエピソードは、猫さんがうちにいるので、川原で、とか聞いてる間、いろいろ想像してしまって、わー、、痛い痛い、、もう無理だ、、と思った、しんどいシーンだった、、

…音楽
登場人物の心情を表すのに、音楽がとても効いていると感じた。
画と楽曲の世界観が一体となって、シーンごとの心情にそっと寄り添うように、ときにはざわつかせるように、とても合っていた。
映画と音楽との関係性、用いりかたにかなりセンスとこだわりを感じた。

Day on Umbrellaのこと、今回初めて知ったけど、好きになった。
今後もいろんな新しい曲もっと聴いてみたかった。
活動休止だとのこと、本当に残念でならない。。
いままでの曲、サントラ、リピートさせていただこうと思う。

…映像の「美」 
カラコレ、グレーディング、照明…
好みだったなあ。
特にクラブのシーン、
ミラーボールの光、ドラッグの色の鮮やかさ、ハチの顔に当たるカラフルな光、、、
魅了された、、、

…スチール 
誰かが、映像は立体的に切り取った連続した瞬間、写真は平面に切り取られた一瞬と言っていたけど…なんだけど、人物だったら、いまにも動き出して、しゃべり始めそうな…
静止しているけど動きのあるというか、、声が、においがするスチールだと思った…
うまく表現できない、、難しいな、、
好みでした。

…深く印象に残った演技
/倉さんのコロコロ変わっていく表情、ひとに揉まれ成長していくさま
/見上さんの時に感情を抑えた表情、脚から地面に力強く抜ける歩き方、ハチに見せるときの手帳の突き出し方、文字の線の太い細い強弱のつけかた
/見津さんの冷徹なキレ方、じわじわ来る狂気、命のエネルギーの感じられなさ
/錫木さんの一度観たら忘れられない狂った笑顔、底のない依存心、自己肯定感の低さ
/工藤さんの笑顔の裏にある抱えた不安定さ、こころの脆さ
/池田さんのどこにでもいそうな若者が踏み外して闇堕ちしていく姿の演じかた、甘い声
/川郷司さんの吸い込まれそうな闇色した眼の演技、生きてるけど亡霊みたいな雰囲気の演技、死とか血とかに心地よさを感じてそうな狂気さ、台詞のお前のその眼がで眼とがの間に(ん)の音かな?入れるところ
/山本さんの登場によって、ほっと一息つける雰囲気や安心感、1番普通のひと感
/佐久間さんの不当にお金を要求するずる賢さ、だけど悪人じゃない感
/三村さんの第2のハチ感を出しつつ、きっとそうはならなそうな素朴さ
/村上淳さんのダースベイダー的悪人さと闇堕ちした本当は息子を想う父感、危ない橋を何度も渡ってきたことが滲む裏社会のひと感、外国のマフィア的な雰囲気

…ハチとアイのラスト
鑑賞者のもしかすると望むもの。観たいもの。期待。想像する画。
に分かってるけど、合わせてこない、跳ね除けてくる、ハチの、社会や人間のリアルと未来への希望、アイの、見出した希望を描く真っ直ぐ正直なラストだと感じた、

…全体
土井監督のショートフィルム「群青」を観る機会があったので、観て、「衝動」を観ると、まるで違う監督さんの作品かなと一瞬思ったぐらい、イメージが違ってた。
テーマが違うし、当然だけど…。
けど、どちらも「青春映画」だなー

「群青」は、賛否両論、真っ二つに割れる映画というよりは、鑑賞者の共感を集めそうな作品というか、自身の高校時代を振り返り思い出しても、「ああこういうのあったなあ」というエピソードや演出がたくさんあったので、「衝動」と並べたときに、監督のそれぞれの作品での表現の振り切った幅広さを感じて、ただただすごいなあ、と才能とかセンスとかに圧倒された。

「衝動」は、「面白い」「面白くない」では、割り切れないというか…こころにグサッグサッと刺さる、強く記憶に残る作品で、好きな映画だった!
「死にたい」と言っているひとからも必死に「生きたい」と叫ぶこころの声が聞こえた気がした。
やっぱり「生」のエネルギーを受け取る映画だったなと、個人的にそう思う。

土井監督には、今後もどんなかたちやテーマであれ、ずっと作品を作り続けていってほしい。
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