mimitakoyaki

ブルー・バイユーのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

ブルー・バイユー(2021年製作の映画)
3.9
なんだかとても辛い話でした。
幼少期に養子として韓国からアメリカに来て以来、30年以上アメリカで暮らしていても差別され、なかなか就職できないし、それゆえ貧困で、家族思いの優しい人なんだけど、そんな厳しさに追い詰められていくのが見ていてやるせなかったです。

強制送還のきっかけとなったスーパーでの些細な出来事は、アメリカで社会問題となっている白人警官による黒人へのヘイトクライムを思わせてゾッとします。
もし口論してたのが白人夫婦ならあんな事にはならなかっただろうし、妻であるキャシーの元夫の私情も絡んでるとは言え、法を侵したわけでもないのに逮捕されるなんて、そんな違法がまかり通るのが怖すぎます。

移民の強制送還の話はトランプ政権時代に聞いた事がありましたが、アメリカ市民としてそこで暮らしてきて、生活基盤も家族もあるし、母国と言っても、言葉は通じないし知り合いもいない所にいきなり送還されるなんて、本当に残酷な人権侵害だし暴力だと思います。

この主人公のアントニオだけでなく、養子縁組のシステムの不備から、本人の落ち度でもないなのに、こんな理不尽な目に遭った人達がたくさんいたという事を知って、何とかならないものかと歯痒く思いました。

アントニオは妻の連れ子に対しても、父親として愛情を注ぎ、差別されたりトラブルに巻き込まれるような事さえなければ、善良に幸せに生きていくんだろうなと思われますが、実の母親に捨てられた事、養子として引き取られた家族から受けた虐待などで心の傷を抱え、そのためか前科もあるし、家族と自分を守るためとは言えやる事が明らかにダメだしで、善良なだけではない複雑さのある人物だったのがリアルでした。

一方で、偶然知り合ったベトナム人女性は、難民としてアメリカに来て、それ自体が強烈な体験で、ずっと辛さを抱えてきたでしょうけれども、同じベトナム移民の人達とのコミュニティが、家族的な温かさや安心感があり、とても平和だったのが、今の家族以外に頼れる人もないアントニオと対照的に描かれていて、当たり前のことですが、同じアジア系移民でも境遇はそれぞれです。
そうした描き方もとても良かったと思いました。

差別が貧困や犯罪も生み出す要因になっているし、不当に社会から暴力的に排除される残酷さに救いがなく、胸が痛かったです。
日本でも、入管施設での深刻な暴力と人権侵害や、技能実習生への奴隷的扱いなどをはじめとした差別やヘイトクライムもあるので、遠いアメリカの話として他人事として聞いていられないと思いました。

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