いしんじ

沈黙のパレードのいしんじのレビュー・感想・評価

沈黙のパレード(2022年製作の映画)
4.7
幾重にも重なる「沈黙」。肯定の沈黙、隠す沈黙、潜む沈黙、目を背ける沈黙、選ばぬ沈黙…。それぞれが違う沈黙を持つ。

作中で「偽証罪はあるけど、沈黙罪ってありますか?」という言葉がある。ここでやっぱり思い出すのは、罪ではなく権利だが「黙秘権」があるということ。しかし、この作品では「黙秘」という言葉はなく執拗に「沈黙」という言葉にこだわり続けている。

これは、感覚的な話にはなってしまうが、「黙秘」という言葉は何かを隠そうとする「意思」や「能動的なアクション」が見えてくる。それは「黙る」「秘する」という漢字も強く影響しているだろう。

それに対し、「沈黙」は、たしかに「黙る」という漢字も使われてはいるものの、どことなく「取っ掛りのない」「無」という感じの印象を受ける。

例えるなら、「黙秘」は「鍵のかかった部屋」で、「沈黙」は「ドアノブもなく鍵穴もない開かない扉」という感じだろうか。

そう、今回は「嘘や隠し事を見破る」話ではない。「真実ににじり寄る」ような話。常に「何かを間違えているかも」「何かがまだ隠れているかも」という浮遊感がつきまとう。最終いきついた真実にも、まだ裏があるかもしれない。それが取っ掛りのない「沈黙」から真実を見つけ出すということ。この感覚がすんごいおもろい。

ここまで沈黙に関する事を書いちゃったけど、それくらい観ながらずっと「沈黙」って言葉を選んだのすげー!!!って思ってた。

この沈黙の感覚は途中からジワジワと出てくるんだけど、それに至る前のところも十分おもしろくて。

冒頭は、1つのテレビドラマを超ダイジェストですか?ってくらいギュっと詰め込んで、でも必要な情報が適切に伝わるし、その分冒頭としてすごい引き込まれる。そのあと、湯川先生がパレードに絡むところくらいまでは、「観客がガリレオを知っている」故だと思うんだけど、一つ一つが意味深に思えるように見せてくる。わざわざされるアップ、湯川先生がその事について触れる、そういう物が散らばっていて、自然と「え?これって何か事件に関係するのかな」とメタ読みしてしまう。けどそんなメタ読みを見越したかのように、次々と色んなものを意味深っぽく見せて錯乱させてくる。なんだったら実際に事件に関係しているものはサラっと流して無警戒にしてきたりもする。そうやってメタ読みしてしまう観客を振り回しておきながら、話の方向性は「トリックに感動する話じゃないんだよ」と言うかのように進んでいく。

ここら辺の、観客の誘導がすごい上手いなぁと思った。人間の話をやろうとしても、やっぱりどこかガリレオを観る時にはどこか「すごいトリック」を期待するところがある。そんな中、そこへガッカリさせる訳でもなく、ジワジワと「気になること」を誘導する。

だから、ちゃんと言い訳なしの満足感がある。
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