せいか

沈黙のパレードのせいかのネタバレレビュー・内容・結末

沈黙のパレード(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

03/30、TVの地上波で放送されていたものを視聴。原作未読。

だいぶ最初の方で蓮沼寛一が殺された際のトリックそのものとか、おおよその仕掛け自体は察せたくらいでむしろ展開があとから付いてくるくらいだったので、東野圭吾作品なのもあって、ここからさらに人間ドラマ深めつつ経緯についても最低限もう一捻りしてくるんだろうなあと思いながら観ていたし、実際そうだった。そしてそれらもろもろの期待感を裏切らないままに、もっと面白いものにシナリオを昇華してくるのは相変わらずすごいなあと思ったし、映像化作品としてほんとかなり多方面に素晴らしい作品シリーズだよなあと思った。

そもそも殺された、人々に愛された少女もまたなかなか破天荒で夢の方向が周囲を振り回すものがあって決してイメージの通りの美しさがあったわけでもないこと(それが良い悪いという話ではない)、周囲も少女への愛は本当でもほんの少しの歪もあってだとか、最後の最後に沈黙という選択をするかしないかを直接手をかけた人々に問うたりとか、ほんとに面白かった。
本作はあからさまに『オリエント急行殺人事件』のオマージュをしつつも素直にこれに従わなかったり(とはいえ、特に本作の湯川のポジションは2017年版のポアロの解釈の近い役回りで、真相を前に迷いを見せる)。オリエント急行と違って一人ひとりの実行内容はより分散されて薄められていった結果、歯車的にその目的の役割を大なり小なり担い続けていたのに、結果的に何らかの罪に問われるのはごく一部に留められ、その直接の実行者も決して単なる愛した少女のための復讐のためという動機で動いているわけではないとか。一番古くからの怨念を抱いていた、この殺人の動機を与えた男は本当にただどこまでも事の起点にいるだけで歯車を回し始めるスイッチを押した程度の役回りに留まるのみであったりとか。そもそもの蓮沼の罪とその悪に対し、その憎むべき相手とは同じ地点には立たないように抗って選択してるはずなのに、あの緩やかな寂しいハッピーエンドの中にその蓮沼の地点と似たところのある気持ち悪い余韻を残していたりとか。そこはかとなく不気味さの残るストーリーテリングに落とし込んでいたのがすごい。
やや繰り返しになるけれども、蓮沼が殺されることになった一番直接の動機のところにこの蓮沼という男からもはや外れたところで物事の天秤を作り上げるのとか、観ていてシビシビに痺れていた。そしてこの男への殺害をああいう形で虚しいもの、一種の徒労、一つの固く結ばれていたはずのコミュニティーの歪として転換したのとかもそうだけれど、作品が持つテーマの力をさらにめちゃくちゃに強いものにしていて、本映画の関係者一人ひとりがベストを尽くしたというのもあろうけれども、東野圭吾さんってやはりそりゃ人気あるよなあと思いました。
直接手を下した中心人物である夫妻のうちの夫が、そもそも、少女も生きていたかつての時において、妻ときちんと向き合わずに「沈黙し」逃げてしまったというその過去もまたトリガーとなって機能してしまっていたのだよなあ。ただ蓮沼の過去の事件だけが一連のことに繋がる過去ではないとかいうのも巧みが過ぎる。無駄がない。
少女が幼い頃からいろんな人と繋がっていって町のコミュニティーに組み込まれて人生を形作っていったその美しさが、勇気を出して「声を出して」歌ったことで導かれた岐路がここに繋がるべくして繋がっていくその収束とか、シナリオのやってることが美しい。
素敵な作品でした。
せいか

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